第25回目のレビューは、ノーベル文学賞受賞作家である劇作家、ハロルド・ピンター作「管理人」です。
日本での上演はあまり無いそうですが、代表作と言われている本作品。
劇場は三軒茶屋にある“シアタートラム”
客席数が200ほどしかない小さな劇場で上演されました。
舞台と客席との距離が近い、素敵な劇場です。
三人芝居
舞台はアストンが住んでいる部屋。遠近法を用い、奥行きを表現したセットが秀逸でした。
部屋は殺伐としていて、アストンは必要のないようなものを拾い集めては部屋に置いているそうで、物で溢れかえっていました。
登場人物は温水洋一さん演じる老人デーヴィスと若い兄弟、溝端淳平さん演じるミックと忍成修吾さん演じるアストンの三人だけ。
若い兄弟と老人とのなんとも奇妙な関係が、濃密な会話を通して描かれます。
世の不条理さや人間の醜さが強く描かれ、それぞれの抱えている思いが言葉の洪水となり溢れ出ていました。
兄のアストンはゆったりした口調で、職を失って困っていた老人デーヴィスを部屋に泊めてあげるほどの優しさを持っている青年。話し方や歩き方に特徴があり、過去に起こったとある事件によって障害を負っていることが後半明らかになります。
老人デーヴィスとアストンの会話はちぐはぐで、成り立ってないような、でも成り立っているような、不思議で緊張感のある空間が続きました。
そんな緊張感を破り、溝端淳平さん演じるミックが登場します。そんなミックもまた、老人デーヴィスと不思議な関係となっていくのです。
アストンとミック兄弟の関係も独特で、彼らは目が合っても会話ひとつしません。ミックが部屋に入ってくるとアストンは出ていってしまうほど。ミックはそんなアストンに対して少し不満があるようです。
アストンとミックはある日、老人デーヴィスに「この部屋の管理人にならないか?」とそれぞれが持ち掛けました。もちろん二人がその言葉を言った目的は異なっているのですが・・・。
その言葉をきっかけに、今まで何とか保ち続けていた三人の均衡が崩れ始めるのです。
崩れ始めるのは簡単だが、元に戻すことは困難。
それぞれの秘めた思いがろうそくのようにじわじわ溶け始め、流れていきます。
弱い者が弱い者をいじめている姿は見ていて心苦しい。人の弱さや醜さを感じました。
私たちは舞台上=部屋の中で起こっていることしか見ることができず、外の世界のことは彼らの会話からでしか読み解くことができません。彼らは頼りあうこともできず、雨が降り続いていることで外も長いこと出歩けないというような“閉塞感”を、全体を通して強く感じたように思います。
テンポの良い台詞が続き、同時に緩急のはっきりした三人の演技を通して、不条理劇である部分が後半強く描かれていました。逆に前半はクスっと笑ってしまうような愛くるしいシーンも沢山ありました。
最初から最後までたった三人しか出てこない芝居というものを初めて観劇しました。
しかし三人が舞台上にいた顔を合わせたシーンは少なく、老人とどちらかの兄弟の二人だけのシーンが多い印象です。
老人デーヴィスの長くて早口な言い回しが印象的で、ガサツで汚いキャラクターを温水さんが演じられていることにとても驚きました。あまりそういう印象がないもので・・・。
そして12月19日に発表された、紀伊国屋演劇賞にて個人賞も受賞されました!受賞された演技を目の前で観ることができて、貴重な経験をさせていただきました。
私は東京千秋楽公演をU-24チケット(東京公演のみ)で観劇しました。
U-24チケットは当日券が無いため先行申込が必要ですが、通常よりかなり低価格で観劇することができるので、24歳以下の方にはとってもおすすめです。
【公演情報】
『管理人』
公演日:
東京公演:2017年11月26日(日)~12月17日(日) シアタートラム
兵庫公演:2017年12月26日(木)~27日(金) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
観劇日:2017年12月17日(日)13:00公演