第32回目のレビューは、「アンナ・クリスティ」です。
本作品は、篠原涼子さんが13年ぶりに出演される舞台ということで非常に注目されております。
最初に感想を言いますと、非常に素晴らしかった。完全な私見ですが、ここ最近観劇したストレートプレイの中で一番良かったです!
出演者が少ない分、ひとりひとりの存在感が大きくかつ重要で、登場時人物の心情が濃く描かれていました。
だからこそ感情移入しやすく、そして、とにかく皆さんが大熱演で、物語にぐっと引き込まれました。
篠原涼子演じるアンナ・クリスティ
本作はノーベル文学賞受賞作家ユージン・オニールが1921年に発表し、ピューリッツァー賞を受賞した傑作戯曲。
日本では初上演となる本作品。登場人物の複雑な心情を言葉巧みに描き、家族とは、恋人とは、そして自分自身の意味を問う作品です。
篠原涼子さん演じるアンナ・クリスティがとにかく妖艶で美しく、女性としての力強さや、また、孤独に対する恐怖心を乱暴な言動の裏に匂わせ、とても繊細に演じられていました。ひとつひとつの仕草がアンナという女性の過酷な生い立ちを想像させ、胸が痛みます。
私は観劇の際、どうしても役柄というよりかは”俳優の演技”として観てしまいます。しかし、篠原さんのアンナはアンナそのもので、”篠原さんの演技を観ている”というよりかは、”アンナの生き様を見ている”という感覚でした。あまりこういう感覚になったことがないので、私自身とても驚いていますが、それだけ篠原さんがアンナを大熱演されていたからだと思います。
アンナを取り巻く二人の男
アンナと15年ぶりに再会する父親はたかお鷹さん。
アンナに一目惚れして、アンナと恋に落ちる船乗りを佐藤隆太さんが演じられました。
たかお鷹さんの存在感、渋み、お見事でした。
アンナとの絶妙な距離感が言葉のトーンに含まれ、舞台上に漂うのです。
アンナの恋人となるマットを演じた佐藤隆太さんは、無骨で荒々しい男性を好演。
台詞もストレートかつ膨大で、エネルギッシュ。仕草や動きも乱暴ですが、アンナに魅了される男を表現豊かに演じられていました。
舞台の後半、アンナが抱えてきた苦しみが言葉となって吐き出されたとき、台詞のやり取りに緊張感が増し、それそれのキャラクターに感情のうねりが生まれました。
アンナの告白によってマットとの関係性が崩れ、その後、二人の葛藤が激しくぶつかり合う。
悶え苦しみながらも現実を受け入れようとするマットとアンナを演じるお二人がとにかく素晴らしかったです。
秀逸な演出と美術
酒場、船の上、部屋など、場面転換は多くはなかったですが、美術を作りこんでいないにも関わらず雰囲気をがらりと変えてしまった演出には驚きました。
転換では緞帳ではなく薄いカーテンを使って流れるように転換を行い、それぞれの場面に連続性を生み出していました。
霧やタバコの煙なども象徴的に使われ、無駄がなく素敵な演出だったと思います。
静かで流れるように、そして俳優さんの迫力ある好演が光る素晴らしい作品でした!
【公演情報】
「アンナ・クリスティ」
翻訳:徐 賀世子
脚本・演出:栗山民也
出演者:篠原涼子、佐藤隆太、たかお鷹、立石涼子、原康義、福山康平、俵和也、吉田健悟
東京公演:2018年7月13日(金)~2018年7月29日(日) よみうり大手町ホール
大阪公演:2018年8月3日(金)~2018年8月5日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
観劇日:2018年7月26日(木)19:00公演
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