第34回目のレビューは、田中哲司×田中圭W主演の舞台、『サメと泳ぐ』です。
本作は、ハリウッド映画界の裏側を描いたブラックコメディです。
上演時間は3時間という、ストレートプレイの中でもかなりの大作でした。映画界を舞台に、それぞれの登場人物が抱える欲望や思惑を手に入れるため、究極の騙し合いが壮絶に繰り広げられました。
大物プロデューサーの”バディ”と新人アシスタントの”ガイ”
性格は最悪だが、数々の映画をヒットさせてきた大物プロデューサーの”バディ”を演じたのは、田中哲司さん。ひときわ舞台上で大きな存在感を放っていました。
わがままで傲慢で横柄な態度、だけど映画界では頭の切れる存在である”バディ”というキャラクターに説得力がありました。
映画好きで脚本家を夢見て上京し、バディの新人アシスタントとして彼の下で働き始めた”ガイ”を演じたのは田中圭さん。
バディに毎日のように侮辱的な言葉を浴びせられながらも、彼の無理難題に必死に応えようとする純朴なガイをとても繊細に初々しく演じておりました。
以前から田中圭さんの演技が大好きで、彼の出演している舞台はほとんど観劇しています。
今回も作品の最初と最後で全く性格が異なる、振り幅の大きな役柄でした。
”ガイ”という青年が追い込まれていく様を様々な表情で魅せ、落ちてでも這い上がる雄々しい一人の男を美しく演じていたのが印象的でした。耐えて、裏切られて、耐えて、そして最後には暴走する感情がなんとも恐ろしくリアルで、ふと微笑む笑顔に狂気性を感じました。
それぞれの思惑。究極の騙し合い。
物語の前半はバディとガイとの関係性が、彼らの仕事を通して描かれていました。
気に入らないことがあったらすぐ怒鳴り、物を投げつけるバディ。バディからの酷い振る舞いにひたすら耐えるガイ。絵に描いたようなパワハラを見せられているのであまりいい気分ではありませんでした(笑)
そこに現れる一人の女性。
バディに新作の映画企画を売り込みに来た映画プロデューサー、”ドーン”。男の世界で駆け上がっていく強い女性”ドーン”を野波麻帆さんが演じておりました。
野波さんの喋り方がドーンにぴったりで、一度決めたことは曲げない意志の強さが、喋り方から伝わってきます。
ガイとドーンはのちに恋人関係になりますが、その関係すら危ぶまれる計画をバディは動かし始めます。
物語の後半は、騙し合いや裏切りがメインです。
自分の私利私欲のために、ガイやドーンを利用しようとするバディの目が印象的でした。
言葉とは、人の心をいとも簡単に動かしてしまう、恐ろしい武器だと痛感します。
物語の後半になるにつれて、ガイの心の中に止められない感情が生まれてきます。
そして、なんと、ガイはバディを「殺そう」と決意するのです。
拘束されたバディと狂気性に満ち溢れた別人のようなガイ、二人が対峙するシーンはかなり痺れました。
薄暗い照明の中、フードを被り拳銃を突き付けるガイにはバディへの憎しみしかなく、何か少しのきっかけで引き金を引いてしまうのではないかという緊張感がありました。
薄く笑みを浮かべながらバディを痛めつけるガイの姿は楽しんでいるようで、瑞々しい毒と狂気にまみれながら、純粋で美しいガイを田中圭は全身全霊で演じておりました。
前半と後半で作品の雰囲気が変わり、かつ、テンポ感よくストーリーが進むので、あっという間の3時間でした。
ジャズと照明
骨組みが少し見えているようなセットで、2階建てにすることで上下に動きのある演出でした。
ジャズやクラシックが場面展開における一種のスパイスように使われ、場面が変わるごとにテンポの良いジャズが大音量で流れて次のシーンへ進むという、スピード感のある転換でした。ジャズが流れると同時にカラフルな照明が舞台上を照らし、ある種の”アメリカ映画っぽさ”のようなものも感じました。
重たいテーマですが、人間同士の心理ゲームを見ているかのようで、現実のような非現実を味わいました。
公演数はあまり多くはないですが、本作は地方公演があります!
皆様ぜひ見に行ってみてください!
【公演情報】
関西テレビ放送開局60周年記念 「サメと泳ぐ」
原作:ジョージ・ホアン
演出:千葉哲也
出演:田中哲司、田中圭、野波麻帆、石田佳央、伊藤公一、小山あずさ、千葉哲也
東京公演:9月1日(土)~9月9日(日) 世田谷パブリックシアター
仙台公演:9月11日(火) 電力ホール
兵庫公演:9月14日(金)~9月17日(月・祝) 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
福岡公演:9月20日(木)~9月21日(金) ももちパレス
愛媛公演:9月28日(金) 松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
広島公演:10月4日(木) JMSアステールプラザ 大ホール
観劇日:2018年9月2日(日)18:00公演
2018年9月9日(日)13:00公演 東京千秋楽