第39回目のレビューは、赤坂ACTシアターにて上演中の「良い子はみんなご褒美がもらえる」です。
本作は、イギリスの劇作家トム・ストッパードが、俳優とオーケストラの為に書き下ろしたという意欲的な戯曲です。
イギリスの劇作家トム・ストッパードの作品は、戯曲の中での言葉遊びが面白く、随所にユーモアを散りばめてあるのが特徴で、代表作に「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」などがあります。
オーケストラのために書き下ろした作品とあって、普通の演劇のような劇伴として音楽が流れているわけではなく、35人ものオーケストラがステージ上に存在し、劇中に登場するという、何とも斬新な作品です。
今まで様々な作品を観劇しておりますが、オーケストラと役者の芝居がここまで濃密に絡み合い競演している作品は初で、全く新しい観劇体験となりました。
2人の「アレクサンドル・イワノフ」
舞台は、精神病棟の一室。
二人の男が同じ部屋に送り込まれた。
一人は、堤真一演じる政治犯の男(アレクサンドル・イワノフ)、もう一人は橋本良亮演じる、自分はオーケストラを引き連れているという妄想に囚われた男(アレクサンドル・イワノフ)。
奇しくも同じ名前の2人は、社会から追放された身として、強制的に社会適合者へ矯正させられるのです。精神病棟での生活に自由はありません。
2人の会話は、妄想と回想が入り交じり混沌と進んでいきます。オーケストラは、オーケストラを引き連れている男の妄想の中で演奏を続けています。観客は、その男の妄想の中のオーケストラを観ているのです。
一方で、堤さん演じるアレクサンドル・イワノフにはオーケストラは聞こえません。時折、オーケストラの演奏が止まったり、演奏しているフリをするシーンがあり、政治犯の男には演奏は聞こえていないという描写を表していました。
政治犯の男を演じるのが、テレビや映画をはじめ舞台出演の続く堤真一さん。
オーケストラを引き連れているという妄想に囚われた男を演じるのが、A.B.C-Zのセンターであり、昨年も赤坂ACTシアターにて上演された舞台「コインロッカーベイビーズ」で主演をされた橋本良亮さん。
『コインロッカー・ベイビーズ』を観劇した感想(ネタバレあり) - 『書きます!#観劇レビュー』
立場も芸歴も大きく異なる2人がW主演として同じステージに立ち、芝居を通して心を通わせていく様は、何とも感慨深い気持ちになりました。
橋本さんの繊細かつ大胆な表現力で、彼にしか演じられない狂おしさをまとい妄想に取りつかれた男を演じ、一方で、堤さんは囚われ衰弱しきった中でも決して曲げない意志と覚悟を感じる政治犯を演じてられていました。
作品中、“動と静”を強く感じる本作。橋本さんが“動”を担えば堤さんは静”となり、またその逆もしかり。それぞれが持ちうる表現力で相手にぶつかっていく。
芝居の<異種格闘技戦>を観ているかのようでした。
堤さん・橋本さんを囲む個性的なキャスト陣
主演である堤さん、橋本さんを支えるのは、小手伸也さんや斉藤由貴さんら数多くの舞台作品に出演されている役者の方々。
小手さんは2人の担当医師として、難解なストーリーの中に時にユーモラスな演技を交えながら、作品に緩急をつけてくれました。
斉藤さんは、堤さん演じるアレクサンドルの息子の家庭教師。
社会からのはみ出し者の存在を否定し、社会に順応していく人間を育てることに情熱を注ぐキャラクター。
どちらも主演のお二人に比べ台詞は多くないですが、印象に残る濃いキャラクターです。
イギリス人演出家ウィル・タケットの演出
今作の演出を担当されるのは、英国ロイヤルバレエのダンサー出身にして国際的な振付家・演出家のウィル・タケット氏。
精神病棟での2人の不自由な生活を、ダンスを通して表現。規則や価値観に縛られ、自由に生きられない様を、2人を取り巻くアンサンブル(警官)たちと、複雑かつ流れるような動きで表現していました。
上演時間は1時間15分という、舞台作品の中ではかなり短い上演時間。
しかし、体感としては2時間以上あるように感じる程、息つく間もない内容の濃い作品でした。
ステージ奥にオーケストラ、手前に無機質な病室を置き、左右には扉と階段。扉や階段は上下の動きや場面転換で使われていましたが、客席からはオーケストラの一番後ろまで全て見渡せるような造りになっており、作品全体に抽象的な印象を与えています。
そして、上演中一度も暗転がないため、ストーリーを途切れさせることなく場面が繋がっていき、展開が早く非常に面白い演出でした。
オーケストラの演奏と並行して芝居が進められている本作。
ミュージカルではない、斬新な音楽劇が日本初上演されています。
5/12まで上演中で当日券も出ておりますので、皆様ぜひ行ってみてください!
【公演情報】
舞台「良い子はみんなご褒美がもらえる」
作=トム・ストッパード
作曲=アンドレ・プレヴィン
演出=ウィル・タケット
指揮=ヤニック・パジェ
出演=堤真一、橋本良亮(A.B.C-Z)、小手伸也、シム・ウンギョン、外山誠二、斉藤由貴、川合ロン、鈴木奈菜、田中美甫、中西彩加、中林舞、松尾望、宮河愛一郎
東京公演:2019年4月20日(土)~5月7日(火) TBS赤坂ACTシアター
大阪公演:2019年5月11日(土)~12日(日) 大阪フェスティバルホール
観劇日:2019年4月24日(水)19:00公演
2019年5月7日(火) 15:00公演 ※東京千秋楽