第52回目のレビューは、「渦が森団地の眠れない子たち」です。
藤原竜也さんと鈴木亮平さんがダブル主演の本作。
そしてなんと、お二人が小学生役を演じるという非常に面白そうな作品で、情報解禁後から大きな話題となっておりました。
ここはとある団地。
震災によって団地に引っ越してきた小学6年生の圭一郎(鈴木亮平)は、団地のキングと名乗る同級生の鉄志(藤原竜也)と出会い、共に遊ぶようになる。そして彼らは、母親が双子で“いとこ”だったことを知る。鉄志は圭一郎と“血縁の儀”なるものを交わし親友と呼ぶ。しかし、圭一郎は鉄志のことを好きになれない。鉄志は圭一郎の最も嫌いな人間だったのだ・・・。
大人が演じる子ども
子どもは正直だ。自分の言いたいことは言うし、「バカ」とか「アホ」とか、大人が普段口にしないような言葉も直接、物怖じせず言う。そんな姿を大人が演じることで、子どもの幼稚さや愛嬌や、時には社会を知らない滑稽さなんかが浮き出てくる。
しかし、子どもながらに人間関係に悩み、自分の気持ちを抑えたり相手に合わせたりすることはある。
本作は大人になった圭一郎が小学生時代を回想することで始まります。
大人の圭一郎がその当時の自身の気持ちを吐露しながら、舞台は小学生時代に戻っていくのです。
圭一郎を演じる鈴木亮平さんは、大人と子どもを場面によって演じ分けながら物語は進みます。
一方、団地のキング・鉄志を演じる藤原竜也さんは最初から子どもとして登場。彼の姿を見て大人の圭一郎は「僕の最も嫌いな人間でした」とつぶやくのです。
そう言った後に暗転し、子どもの頃のシーンへと移る転換は、ドラマ第1話の導入シーンを観たようで物語に入りやすい印象を受けました。
そして場面ひとつひとつにタイトルが付いており、場面として独立しながらもそれぞれが別の場面に意味をもたらし、繋がっている面白さもありました。
子どもの喧嘩といじめ
小学生の喧嘩やいじめを大人が演じる。
この演劇的表現は、私自身に新たな視点を持たせてくれたと思いました。
喧嘩やいじめは、大人の世界でも消えません。私たち大人が、社会で出くわす喧嘩やいじめも、この子どもたちと何ら変わらないじゃないか、そう思いました。子どもの延長線上に大人がいて、彼らも数年後大人になる。
子どもだからこその薄情な無責任さが、観ている大人達に刺さるのです。
震災の余震は続き、劇中でも何度か余震が起こりました。
震災によって人々の心は荒み、余裕がなくなる。圭一郎も震災によって心に深い闇を負い、動物を殺すことで生きている実感を得ているという事実を鉄志に見つかってしまいます。
また、鉄志は母親から暴言を吐かれ、まともな愛情を与えられていませんでした。
だから鉄志は友達に対して暴力的な言葉や態度を使うのです。
社会や大人が生み出した理不尽さが子どもたちの“暴力”という形で表れます。
全体を通して、子どもというフィルターを通した社会のひずみ・世の生きづらさを映した作品なんだと思いました。
藤原竜也vs鈴木亮平
鉄志と圭一郎はいじめをきっかけに大喧嘩をして対立します。
藤原竜也さんと鈴木亮平さんという実力派のお二人だからこそ、対立する子どもという構図が非常に面白く、それぞれの良さが存分に発揮されている設定だと思いました。
喧嘩のシーンでお互いのパワーをこれでもかと相手にぶつけ合う。
殴って泣いてわめいて叫んで、自分をさらけ出す鉄志と圭一郎。
どこかそんな二人が羨ましくも思ったり。
大人の設定ではなかなかあそこまで全身全霊で相手に怒りをぶつけることはないので、人の本当の姿を二人を通して見せてもらったような気がしています。
本作は、大人の圭一郎が子どもの鉄志を見つめるシーンで始まったのですが、物語の終わり、大人の鉄志を子ども姿の圭一郎が見つめるというシーンで終わったのが印象的でした。始まりと逆の立場で終わっているのと同時に、大人になってもまだ会えていない、ということを表すシーンでもありました。
観ているうちに、重たいテーマの作品なのかとも思ったのですが、随所に笑ってしまうシーンがちりばめられ、ポスター同様ポップさもありつつ、シリアスなシーンもありという、とにかく感情の忙しい作品でした。
私も小学生のとき、喧嘩した友達同士の間に入って、それぞれを取り持ちながら仲裁したな~頑張ってたよなぁ~なんて、舞台を観てるときに思い出したり(笑)
最近観劇した中では非常に好きな作品でした。
基本買わないのですが、パンフレットも購入してしまいました・・・!
数年度、「あ~こんな素敵な作品あったよなぁ」と想い返したくなる作品でした。
【公演情報】
『渦が森団地の眠れない子たち』
作・演出:蓬莱竜太
出演: 藤原竜也、鈴木亮平、奥貫 薫、木場勝己、岩瀬 亮、蒲野紳之助、辰巳智秋、林 大貴、宮崎敏行、青山美郷、伊東沙保、太田緑ロランス、田原靖子、傳田うに
東京公演:2019年10月4日(金)〜20日(日) 東京国立劇場 中劇場
鳥栖公演:2019年10月26日(土)~27日(日) 鳥栖市民文化会館 大ホール
大阪公演:2019年10月29日(火)~30日(水) 森ノ宮ピロティホール
名古屋公演:2019年11月1日(金)~4日(月・祝) 御園座
広島公演:2019年11月7日(木)~8日(金) JMSアステールプラザ大ホール
仙台公演:2019年11月16日(土)~17日(日) 多賀城市民会館 大ホール
観劇日:2019年10月14日(月)13:30公演