第53回目のレビューは、「相対的浮世絵」です。
下北沢 本多劇場で上演中の本作は、20年の時を経て再会した兄弟を軸に、不思議な空間で巻き起こった彼らの「人生」を描いた作品でした。
現在を生きる二人と時間が止まったままの二人
主人公の岬智朗と教師をしている関は高校からの同級生。
彼らは仕事や家庭に問題を抱え、行き詰っていた。
ある日、「事故」で死んだはずの弟と友人が突然目の前に現れた。しかも「僕たちは幽霊じゃない」なんて言っている。
なんとも鵜呑みにはできない状況だが、そんな二人に振り回される智朗と関。会えて嬉しい一方、会いたくない気持ちもあったのだ。
20年前、達郎と遠山が亡くなった事故は部室の火災で、当時4人は部室にいた。その原因は智朗のタバコの火。そして智朗は遠山を燃え盛る部室に残して逃げ出してしまい、弟の達郎は智朗を助け出そうと部室へ入り、命を落としていた。
自分達のせいで亡くなった二人が突然目の前に現れた。
複雑な気持ちを抱えながらも、彼らに付き合ううちに、昔話に花が咲く。
昔話は徐々に「事故」へ話が及び、不穏な空気が流れ始める。あの日、本当は何が起こったのか、誰の言葉が正しかったのか。
4人があの「時間」を思い出した時、4人の時間が動き始めるのだった。
本作の台詞はなまりのある方言で、場面転換がなく動きの少ない会話劇である本作に方言台詞が作品全体の緩急をつけていました。
時折出てくる「事故」の言葉に智朗と関は何ともいえない表情をするのですが、そんな二人を許しているのかしていないのか、亡くなった達郎と遠山は明るい表情で「事故」という言葉を発します。
現在を生きている二人にとって、「事故」は過去のもの。20年という月日が過ぎ、記憶も出来事も薄れていたのです。
しかし、その「事故」のせいで亡くなった二人は時間が止まったまま。彼らの人生は「事故」で終わっているのです。
4人があの「事故」ときちんと向き合ったとき、今まで隠していた彼らの本音が溢れ出てきます。
緊張感で空気が張り詰め、観劇しているこっちまで息をするのを忘れてしまうくらいの緊張感でした。
時間を巻き戻すことはできないけれど。
自分の人生を見つめ直すことはできます。
本作からこんなことを感じました。
智朗と関は、自分自身を嘘や悪行で固め、後戻りもできない状況で日々生きていました。
そんなとき、死んだはずの達郎と遠山が目の前に現れたことで、自身の過去を見つめ直し、現在を見つめ直すことができたのです。
見つめ直したことで、仕事も家庭も全て失った二人でしたが、とても清々しくて、暗転直前まで笑い合っている二人がなんとも素敵で、印象的なシーンでした。
人間として一回り、いや、二回り大きくなった姿を最後に見せてくれるのでした。
今回、NONSTYLEの石田さんが出演されるということで本作を観劇しました。
石田さんは何度も舞台出演経験があり、非常に演技が繊細で上手く、以前から大好きな芸人さんです。
今回も、主人公の親友である関を、既存のイメージとは異なるキャラクターでしたが違和感なく演じており、やっぱり演技上手だなぁと再確認させてもらいました。
【公演情報】
『相対的浮世絵』
作:土田英生
演出:青木豪
日時:
東京公演:2019年10月25日(金)〜11月17日(日) 下北沢 本多劇場
大阪公演:2019年11月22日(金)~11月24日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
観劇日:2019年11月2日(土)18:00公演