今回のレビューは、舞台「ツダマンの世界」です。
松尾スズキさん作・演出、阿部サダヲさん主演の本作。
舞台は昭和初期、阿部サダヲさん演じる冴えない作家を主人公に、彼の人生と彼を取り巻く人達の行き様を描いた作品です。
松尾さんの描く世界は面白くて、癖まみれ。奇想天外な展開もありつつ、戦争という史実も盛り込んでいるので、激動の時代に必死に生きた人たちを描いたエンターテインメントのように感じました。
没入感のあるストーリー
本作は、幕を引いてステージを前後・左右に区切りながら場面展開する手法を用いていて、この方法は初めて見ました。転換しながら片方ではストーリーを進めているので、ストーリーが一切止まりません。物語を止めないという工夫は、最後まで作品への集中力を切らすことなく走り抜けられる爽快感すらありました。
個人的にも、暗転が入るとどうしてもストーリーが途切れるので、集中力が切れるんですよね。別のこと考えてしまったり・・・。
本作は、他のことを考えさせる暇もなく怒涛の展開が待ち受けています。
主人公のツダマン、津田万次を演じるのは阿部サダヲさん。津田万次以外にも複数演じるので、ほぼ出ずっぱり。演じ分けも観ていて楽しいですし、芸達者な阿部さんの様々な表情を見ることができます。
松尾さんの演出はかなり斬新な手法も取り入れており、津田万次の感情が爆発する様をドラムを叩くことで表現していたのですが、これがまた非常に面白い。
ステージ上にドラムが1つだけ置かれ、それを阿部さんがひたすら叩く。ドラムの音と叩いている姿の荒々しさから溜めてたものが爆発した感情が見て取れます。かなりクレイジーなシーンですが、この演出が可能なのは阿部さんだからだろうなと。その俳優のキャラクターやポテンシャルの高さが、ありえない表現を可能にしているのだと思いました。
アナログと映像
松尾さんの演出には毎回驚きがあり、胸が高鳴ります。
今回も面白い仕掛けが随所に盛り込まれていました。
背景には映像が投影され、一瞬でシーンがガラッと変わる展開の早さ。
背景に映像を用いる演劇作品は2.5次元ではよく見ますが、それ以外ではそこまで多くない印象です。映像と俳優が連動するあの瞬間は視覚的にも非常に面白いです。
また、最小限のセットで場面を作り出す上手さはさすがとしか言いようがありません。幽霊の浮遊感や川の流れなどは人力で表現するアナログな手法を用い、演劇的な表現も随所で見られました。
松尾ワールドを担う個性豊かな俳優たち
松尾さん作品常連の阿部サダヲさん、皆川猿時さん、杉村蝉之介さんをはじめとして、吉田羊さん、江口のりこさんら女優さんがまぁとにかく上手いです。
江口さんは本作の語りとして全編で登場しては、各場面の登場人物に的確なツッコミを入れています。江口さんのツッコミは、女優さんのなかではダントツ一番ですね。イントネーションや関西弁など、適役すぎました。
そして6年ぶりの舞台出演となる間宮祥太郎さん。阿部さん演じるツダマンの弟子・長谷川葉蔵として出演しています。
間宮さんはとにかく体張っています。首つりの格好で長台詞を言い、いろんな人とキスをし、叫んで走って、不器用で面倒だけど、でもなぜか愛おしい青年を演じています。
長身でイケメンなのにどうしてこうもポンコツ役が似合うのでしょう。
葉蔵はかなり厄介なキャラクターがゆえ、笑い部分も多く担当していますが、しっかり笑ってしまいました。間宮さんの熱血なイメージや可愛らしいキャラクターが、全力でアホなことをしても"本気でアホなんじゃないか"と思ってしまう。だから笑ってしまう。
これは彼の持つ強みだな、と感じました。
本作はR18な大人なシーンもかなりあって驚きました。自主規制が入るのがまた面白かったですが、友人や家族と行ったら、テレビでキスシーンが流れたときのような気まずい雰囲気になるかも……?ただ今回は一人で観に行きましたので「一人で行ってよかった・・・」。でも完全に一人で見ているわけではないし…お客さんたくさんいるし…。性的描写はやっぱ苦手。。。
松尾さんの作品はバッドエンドが多い印象なのですが、本作は主人公が亡くなったり辛いまま終わることがありませんでした。
ツダマンとその妻、吉田羊さん演じる数さんも激動の時代を乗り越え必死に生き延びているであろう終わり方で、とにかくかっこいい終わり方でした。痺れました。
【公演情報】
COCOON PRODUCTION 2022「ツダマンの世界」
作・演出:松尾スズキ
出演:阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこ、村杉蝉之介、笠松はる、見上愛、町田水城、井上尚、青山祥子、中井千聖、八木光太郎、橋本隆佑、河井克夫、皆川猿時、吉田羊
公演日程:
東京公演:2022年11月23日(水・祝)~12月18日(日) シアターコクーン
京都公演:2022年12月23日(金)~12月29日(木) ロームシアター京都 メインホール
観劇日:2022年12月3日(土)13:00公演