『書きます!#観劇レビュー』

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宝塚宙組『夢現の先に』を観劇した感想(ネタバレあり)

今回のレビューは、宝塚宙組「夢現の先に」です。



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宙組の鷹翔千空さん初主演となる本作は、気弱な青年"僕"がさまざまな人との出会いと愛に支えられて大きく変わっていく成長劇、そして大切な人を救うために奔走する物語です。

 

あらすじを読んだとき、登場人物が「僕」「彼」「彼女」という、抽象的な設定であることに驚きました。羊たちや夢の住人なども登場するらしく、一体どんな物語なんだろうと観劇前からストーリーがとても気になっていた作品です。

 

観劇後に感じたのは、抽象的な印象だったあらすじとは異なり、非常にポップで観やすく、たくさんの人達の愛と優しさに満ち溢れた物語だということです。

あまり舞台を観て泣くことがないのですが、今回は役者の皆さんの表情につられて泣いてしまいました、、、。それほどまでにそれぞれのキャラクターの感情が客席にまで届いてきたのだと思います。

 

鷹翔さん演じる"僕"、亜音有星さん演じる"彼"、山吹ひばりさん演じる"彼女"、それぞれがとても一生懸命で不器用で愛らしくて、ラストには涙を誘う展開が待ち受けていました。

 

本レビューは以下よりネタバレを含んでおりますので、お読みになる方はご注意ください!

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悪夢にうなされる僕

 

 

鷹翔さん演じる"僕"は、悪夢にうなされることが日常となっていました。"僕"は白いスキーウェアのような重たそうな服を着ていて、服からは数メートルあるベルトが何本も垂れ下がっています。黒い服を着た人たちが悪夢を表現し、ベルトをひっぱったりと"僕"にまとわりつきます。

 

つらい悪夢にうなされた"僕"の前に、亜音さん演じる"彼"が突然現れます。

すると「明るい夢の世界に行こうよ!」と僕を強引に明るい夢へと連れていくのです。

 

"彼"も"僕"同様、スキーウェアのような重たそうな服を着ていて、おそらく10~15歳ほどの少年。見た目よりかなり幼く、言動に子供っぽさがあります。

この子供っぽさも伏線になっていて、2幕で明らかになっていきます。

"彼"は羊を3匹連れていて、羊たちは"彼"のことを「ご主人さま」と呼んでいました。

 

"彼"は、"僕"を引っ張り回すため、非常にエネルギーの必要な役であると同時に、子供っぽさから素直な感情がそのまま表情に出る、かなり難しい役だと思います。ですが、亜音さんの豊かな表現力で、シーンごとに、また、場面のなかでも何度も変わる"彼"の心情がしっかりと伝わってきます。

 

夢の世界は、夢を見ている人たちが集う場所。夢からさめれば、夢の世界からは消え、現実の世界へと戻ります。

"僕"は自由に夢から出入りできます。でも"彼"は丘の上にある扉を開けなければ夢の世界から出ていけない様子。

なぜ、"彼"は扉を開けなければ夢から出られないのか・・・その理由も、2幕で明らかになっていきます。

 

一目ぼれした"彼女"、嫌いな傘

 

"僕"には一目ぼれした女性がいました。1か月前の雨の日に傘を貸してくれた、ひばりさん演じる"彼女"です。

 

"僕"は"彼"に連れて行かれた明るい夢のなかで"彼女"と再会し、"彼"や羊、夢の住人たちと告白の練習をしていました。

そして現実の世界でも"彼女"へ告白をするという、大きな大きな一歩を踏み出そうと、”彼女”の働く花屋へと向かいます。

 

花屋のシーンはコメディ部分を担っているようで、客席からも笑い声が聞こえてくるシーンでした。"彼女"とともに働くモニカとフランクも愛嬌のあるキャラクターで、モニカ役の朝木陽彩さん、フランク役の大路りせさんのリアクションや表情がいい意味でオーバーめ。

"彼女"に片思いしているフランクは"彼女"が"僕"に傘を貸したこと、また"彼"に会いたいと"彼女"が思っていることを知って膝から崩れ落ちたり(笑)

 

花屋を訪れた"僕"は"彼女"に傘を返し、勇気を出してデートに誘います。

おどおどとデートへ誘う"僕”の言動がとても可愛らしく、鷹翔さんの演技力が光ります。

 

"僕"と"彼女"はデートを重ね、付き合うことになりました。

スキーウェアのような服にも徐々に変化が。何本も垂れていたベルトやフードもなくなり、"僕"は悪夢を見る回数も減っていました。

 

雨の日、ベンチに座る2人。"彼女"は「私たちが出会ったあの雨の日、なぜ傘を差さなかったの?」と尋ねると、"僕"は「傘が嫌いなんだ」と答えます。

 

10年前、父親が交通事故で病院に運ばれ、その日傘をさしていた"僕"は、強風にあおられて病院への到着が遅れ、父親の死に間に合わなかったのです。

 

父親の死が"僕"の悪夢の原因であり、傘が大きなトラウマとなっていたのです。

"僕"が苦しみながら話す隣でしっかりと聞く"彼女"の表情がとても繊細で、心強い。 

"彼女"の存在が"彼"の大きな支えとなり、悪夢の原因と10年ぶりに向き合うことができました。

 

父親が病院で亡くなる回想シーンで、"僕"が物語の冒頭に来ていた衣装をベッドに横たわっている父親がまとっており、"僕"は父親の死(=衣装)を10年間もの間まとい、悪夢にうなされていたことが見て取れました。

物語が進むにつれて、"僕"の変化していく心情が、衣装が変化していくことで視覚的に表現しています。

 

一方で、"彼"の衣装にも変化が。いままで付いていなかったチューブが衣装から何本も垂れさがっているのでした。

 

夢の中の"彼"を助けたい

 

"彼女”とともに、父親が亡くなった病院を10年ぶりに訪れる"僕"。

 

すると、”彼"とともにいた羊のうちの一匹"メロ"が病院を走り回っています。メロを追いかけると、ある病室の前にたどり着いた"僕"。

 

なんと、そこで眠っていたのは"彼"。

 

"彼"は10年前交通事故に遭い、目を覚ますことなく、病室で眠り続けているというのです。

ベッドの枕元には羊のぬいぐるみが並べられ、夢の中で"彼"とともにいる羊たちはぬいぐるみだということを理解する"僕"。

"彼女"との出会いで"僕"は父の死というトラウマを克服し、病院を訪れることができ、"彼"の本当の姿を知ることができたのです。

 

 

劇中で何度も披露されるナンバーで”僕"は「まだ見ぬ君に会えたなら」と歌っています。この歌詞の"君"は、物語の前半では"彼女"を指し、後半では"彼"のことを指しているのだと思いました。

 

"僕"にとって"彼"は、本音で話せる唯一の親友。そして、これからもずっと会いたい大切な人。

 

"彼"を夢の世界から現実の世界へ連れ出したい"僕"。

"僕"の目の前に扉が現れ、その扉の向こうには"彼"がいました。

"彼"の衣装にはまた変化があり、先ほどまで透明だったチューブは赤く、まるで血が流れているかのよう。

病状が悪化しているようにも見て取れ、見ているだけで辛そうな衣装です。

 

夢の世界に引き留めたい羊たちに掴まれて、身動きの取れない"彼"。"彼"の表情はとても悲しく辛そうで、扉を見つめるしかありません。でも諦めない"僕"は扉の向こうの"彼"と羊たちを説得するのです。

 

「僕は君を見捨てたりしない」

「現実の世界で一緒に遊びたいんだ」

 

"彼"は目に涙を浮かべながらこう言いました。

「僕が走れるようになるには時間がかかるかもしれない」

「もしかしたら立てないかもしれない」

「君を待たせてしまう」

亜音さんの涙にこちらも涙が溢れ出てきます。

 

そんな"彼"に対して"僕"はしっかりとした表情で「いつまでも待ってる」と伝えます。濁りのない表情で宣言する強い覚悟を感じました。

 

その言葉を聞き羊たちは"彼"を現実の世界へ返してあげようと離れます。羊たちとお別れし、扉を開いた"彼"。

ようやく、現実の世界の"僕"と出会うことができたのです。

 

飛びかかるように抱き合う二人。

「(彼)いっぱい一緒に遊ぶからね!?」「(僕)もちろん!」というラストのセリフにも涙が出てきてしまいました。

 

気弱だった青年が、大切な人を守ろうとするまで成長した姿、そして、"彼"との絆に最後まで涙が止まりませんでした。

 

この作品全体を通して、「声」がとても印象的でした。

彼を囲む夢の住人が、僕の話すことに対してあえて自由にリアクションを取ったり、やじったり。とても自由なんです。

 

こういった大人数が出演するシーンでは珍しく、全員がその場で普通に会話しているイメージで、客席まで聞こえてくる声がとても多かったです。

また、マイク自体は入っているのですが、音が大きくなく、演者の地声がそのまま聞こえてくるようでした。

 

あえてか分からないのですが、舞台上を生きている彼らの声そのものをほぼマイクを通さず聞いているような気がして、彼らの話し声や会話がなんだかリアルで鮮明だと思いました。

 

個人的には、羊のメロ役、泉堂成さんの声がとても好きでした。幼さを随所に感じるなかに力強さも感じる強い声で、二幕での物語のキーとなるメロにぴったりといいますか、とても印象的な声でした。

 

フィナーレ

 

物語とは別にフィナーレがありましたが、鷹翔さんと亜音さん2人のダンスがとても印象的でした。

おふたりとも時折笑顔も見せながら楽しそうに踊っていたのですが、まるで、"僕”と”彼”が現実の世界で幸せそうに遊んでいる姿だと勝手に解釈して、勝手に泣いていました、、、。

 

本当に楽しそうにダンスされていて、、、涙が、、、。

 

 

本作は、宝塚大劇場に併設されている宝塚バウホールにて上演されています。客席数は約500席ほどで小さめの劇場です。

小劇場だからこその演目だと思いましたし、セットもシンプルで、衣装でキャラクターの心情変化を表現する面白さがありました。

 

おそらくメインキャラクターである僕、彼、彼女は当て書きだと思いますので、鷹翔さん・亜音さん・ひばりさんのお人柄や魅力が存分に発揮されていますし、3人を囲むキャラクターも全て良い人たちで可愛らしく、心洗われるとても素晴らしい作品でした。

 

そして本公演をもって、朝木陽彩さんが宝塚を卒業されます。

本作ではコミカルでキュートな演技に、伸びやかで透明感のある歌声も存分に披露されていて、とても大好きな娘役さんでした。今後も素敵な人生を送られることを願っております!

 

【公演情報】

 

宝塚宙組バウ・ドリーミング「夢現の先に」

 

作・演出:生駒 怜子

 

出演:

秋奈 るい、花菱 りず、澄風 なぎ、鷹翔 千空、湖々 さくら、凰海 るの、輝 ゆう、亜音 有星、栞菜 ひまり、琉稀 みうさ、朝木 陽彩、梓 唯央、楓姫 るる、舞 こころ、陽彩 風華、山吹 ひばり、泉堂 成、大路 りせ、葵 祐稀、聖 叶亜、明希翔 せい、渚 ゆり、郁 いりや、花咲 美玖、波輝 瑛斗、風翔 夕、結沙 かのん、奈央 麗斗、華乃 みゆ、澄乃 紬

 

公演日程:

2023年1月5日(木)~21日(土) 宝塚バウホール

 

観劇日:2023年1月17日(火)11:30公演