今回のレビューは、舞台「台風23号」です。
とある田舎町を舞台に、人々の交流を通して彼らが抱える苦悩や不安、感情を描いた作品。
派手さはない作品でしたが非常に演劇的で、フィクションでありつつもどこか生々しい彼らの感じている生きづらさが痛いほど伝わってきました。一方で、そんな生きづらさを肯定してくれるような作品でもありました。
森田剛さんが演じるのは配達員。彼はこの地域の配達を担当しているようで、来る日も来る日も大量の荷物を配達しています。
間宮祥太朗さんが演じるのは介護ヘルパーの田辺。担当しているおじいさんが目を離すとどこかに行ってしまうようで、おじいさんを探し回る日々。ようやく探し出せたと思えば、理不尽な言いがかりをつけられて困惑。
そんな登場人物たちは、変わらない毎日を淡々とこなしていますが、物語が進むにつれて抱えている想いが少しずつ見えてきます。
将来への希望なんて持っていないけれど、それでも生きていくしかない、そんなメッセージが作品に込められている気がしました。
彼らは、何者にもなれていない自身への焦りを感じているようでしたが、みんな実際何者でもないし何者になる必要もない。個人的には”人は誰しも最終的には死ぬんだから、だからこそ楽しく生きていこうよ”とも思いました。
森田剛さんは年間通して数多くの舞台作品に出演されておりますが、私自身初めて森田さんの作品を観劇しました。どこか気だるげで、こんな人本当にいるよな~感。
悪役を演じられているイメージがあったのですが、飾っていない自然体な雰囲気もあって、こういう”普通の人”を演じるのも上手だなと思いました。
森田さんとダブル主演として本作に出演している間宮祥太朗さん。
介護ヘルパーとして物腰柔らかく、おじいさんやその家族の方達へ優しく接している一方、表に出せない感情が物語の後半で爆発します。生き苦しさや理不尽な言いがかりをつけられても堪えてきた彼の心のキャパが限界を迎え、感情が蛇口をひねったように溢れ出す。その様子は見ていて辛いけれど人間味のある姿だなと感じました。
登場人物たちの気持ちは晴れることなく、誰も救われないまま物語の幕は閉じますが、こうして彼らの日々が続いていくんだろうな…という少し重たい余韻を感じる終わり方でした。
【公演情報】
Bunkamura Production 2024「台風23号」
作・演出:赤堀雅秋
出演:森田剛、間宮祥太朗、木村多江、藤井隆、伊原六花、駒木根隆介、秋山菜津子、佐藤B作、赤堀雅秋
日程
東京公演:2024年10月5日(土)~10月27日(日) THEATER MILANO-Za
大阪公演:2024年11月1日(金)~11月4日(月・祝) 森ノ宮ピロティホール
愛知公演:2024年11月8日(金)~11月9日(土) 穂の国とよはし芸術劇場PLATホール
観劇日:2024年10月17日(木)18:00公演