今回のレビューは、劇団新感線の作品である歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」です。
“圧巻”でした。
言葉を失うほど作品に圧倒され、役者の皆様の迫力と熱気を全身で浴びて、へとへとになりながら会場を後にしました。私は座っているだけなのになんでこんなに体力削られるんだ…。
本作は”歌舞伎”ではなく、”歌舞伎役者による劇団新感線”。
そもそも劇団新感線の作品はエネルギッシュでパワフルな作品が特徴ですが、歌舞伎役者の皆さまの持つ力が作品自体のエネルギーと混ざり合い、とにかく圧倒的。受け止める観客も相当のパワーを必要とする感覚でした。こちら側の体力が削られるから軽い気持ちでは観に行けないぞ、劇団新感線の作品は(笑)
2007年に初演、主人公の青年ライを松本幸四郎さんが演じられていたとのことですが、今回は松本幸四郎さんと尾上松也さんのダブルキャストでライを公演替わりに演じています。
私が観劇したのは尾上松也さんが主人公ライの回。
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刀の腕前は一流だが、身分が低く金品を盗んだり落ち武者狩りをして生きていたライ。そんな彼の目の前に入ってはいけないとされている朧の森が現れ、導かれるように森の中へと入っていく。大きな滝とともに朧の森の魔物が彼の前に現れると、ライの欲望を呼び覚まし、彼に契約を持ち掛ける。「お前の命を引き換えに、この国の王座を与えよう」
ライはその言葉につられて魔物と契約してしまう。
契約とともに与えられた”剣”にもライの力が宿り、物凄いスピードで王座に上り詰めていく。
だがしかし、王座に手をかけた瞬間こそ、ライの破滅の始まりだった…。
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あらすじから既に感じるこの作品の持つ迫力。
尾上さん演じるライのやんちゃっぽさと滲み出る色気に心奪われ、一瞬で物語に吸い込まれていきました。歌舞伎役者の方は本当に色気があってかっこいいなぁと思いますし、尾上さんは可愛らしいライを演じつつ、後半にかけて破滅へと堕ちていくライの演じ分けがとにかく恐ろしかったです。
物語が進むにつれて王座へと近づいていくライの格好が豪華に、かつ恐ろしく変わっていくのはもちろん、目線・佇まい、すべてが変化し、尾上さん芝居力に圧倒されっぱなしの3時間。
森に迷い込む場面では、大量の水を使用して舞台上に滝が出現。大量の水を使用することが可能な新橋演舞場ならではの演出ですし、大量の水が流れていく音も相まってかなりの迫力。そこに映像や音楽も加わって、おどろおどろしい場面になっていました。
1幕の最初、あんなに可愛らしかったのに、1幕のラスト以降ライからは笑顔が消え、嘘と裏切り、欲望が彼を蝕んでいきます。破滅へと進んでいく様子が痛々しく恐ろしく描かれていき、物語はクライマックスへ。
自分で自分を殺してしまうほど欲望に支配され、完全無欠の”朧の森の魔物”へと変貌を遂げてしまったライ。死んだ…と思ったら、ど迫力な真っ白の着物姿で登場し、花道から3階席まで浮遊していく演出、とんでもなかったです。
あんなにゆっくりと3階まで見得を切りながら、浮遊する尾上さんの体力と圧倒的存在感。
今回3階で観劇していたので、どんどん近づいてくるライの迫力に、驚きと感動で開いた口がふさがりませんでした。
人がゆっくりとしたスピード感で3階席まで浮かんでいるという、絶対にありえない状況を目の当たりにすると脳が"これは夢の世界だ"と解釈。
ファンタジックで力強く素晴らしい終わり方でした。
せっかくのダブルキャストだったので、松本幸四郎さんがライ役の公演も観たかったですし、1階席でも観たかったです…スケジュールを確保できなかったのが悔やまれる。
今年観劇した作品の中でNo.1の迫力でした。年々チケット代が高くなっている演劇業界ですが、高いお金を払ってでも観たいな、むしろ安いかもな、と思える作品に久々に出会えました。
【公演情報】
歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:
ライ/サダミツ(交互出演):松本幸四郎/尾上松也
ツナ:中村時蔵
シキブ:坂東新悟
キンタ:尾上右近
シュテン:市川染五郎
アラドウジ:澤村宗之助
ショウゲン:大谷廣太郎
マダレ:市川猿弥
ウラベ:片岡亀蔵
イチノオオキミ:坂東彌十郎
日程
東京公演:2024年11月30日(土)~12月26日(木) 新橋演舞場
福岡公演:2025年2月4日(火)~2月25日(火) 博多座
観劇日:2024年12月8日(日)17:00公演