今回のレビューは、舞台「アーモンド」です。

A.B.C-Z戸塚祥太さんが主演をつとめ、シアタートラムで上演中の本作。
人より扁桃体(アーモンド)が小さく、感情が感じ取りづらい少年ユンジェ。
感受性が豊かで、感情の起伏が激しい少年ゴニ。
2人の正反対な少年が運命的に出会い、それぞれの人生を変えるまでの物語です。
韓国の小説「アーモンド」を原作とした本作。
小説を読んでから観劇したのですが、小説そのものを休憩なし130分の上演時間のなかで全て描いていたところに驚きました。
聞きたかった台詞や見たかったシーン全てがしっかりと表現されていて、130分で約270ページある小説のほとんどを描くことってできるんだ…と観劇しながら気持ちが高ぶっていました。
主人公のユンジェを演じる戸塚さんは上演中ほとんどステージ上にいて、ストーリーテラーの役割も担いつつ自身の物語を進めていきます。
戸塚さん以外の役者6人は、通行人や教室の生徒など、物語のなかで登場する数十人を代わる代わる演じ、コンテンポラリーダンスを取り入れながら、それぞれのキャラクターの感情を表現していきます。
感情を感じられないユンジェを、表情を変えずとも目線やまばたき、細かな体の動かし方で表現していく戸塚さんはやはり芝居が上手い。
身体での表現も重力を感じさせないしなやかさがあり、ユンジェのひょうひょうとした雰囲気が伝わってきます。
一方、怒鳴ったり殴ったり、暴力的で感情の起伏が激しいゴニを演じるのは崎山つばささん。
最初はユンジェをいじめていたゴニでしたが、次第にユンジェの"感情が感じ取れない"思考が気になっていく。ユンジェもゴニの激しい感情が気になり、”感情”というものを知るためにも自分に必要な存在だと思う。ふたりは徐々に、不器用ながらも、ふたりにしか分からない関係性で心を通わせていく。その過程は、小説を読んだときのように、不思議で可愛らしい姿でした。
戸塚さん崎山さんおふたりとも30歳を過ぎているのですが、仕草や喋り方で16歳の高校生に見えてくるのが凄い。
物語のラスト、彼らに大きな事件が襲いかかります。
ユンジェとゴニ、彼らが不器用ながらも心を通わせてきた時間の結末を我々は目の当たりにするわけです。
心が浄化されるような美しい音楽とともに、物語が流れるようにシームレスに進んでいく演出もとても素晴らしく、深く深く「アーモンド」の世界に浸ることができました。
無彩色をベースにしたシンプルなセットと最小限の小道具、そして舞台上に無造作に置かれた本たち。
そして、無機質な空間で黒をベースに赤のポイントが入った衣装を身にまとった役者たち。
シンプルだからこそ、真っ直ぐ伝わってくる作品そのもののメッセージ。
さらに、シアタートラムという約250人という小さな劇場だからこそ、役者の表情がダイレクトに伝わってくるし、感情ひとつひとつの重みが伝わってきて、トラムで上演する意味のある作品だったなあと感じました。
小説のほとんどを130分に詰め込むことってできるんだな。演出も音楽も、役者の皆さんもすべて素晴らしかったです。
そして、この作品を通して、原作「アーモンド」という素晴らしい小説に出会えることができたことも感謝しています。
【公演情報】
舞台「アーモンド」
原作:ソン・ウォンピョン
脚本・演出:板垣恭一
出演:戸塚祥太、崎山つばさ、水夏希、松村優、平川結月、首藤康之、久世星佳
公演日:
東京公演:2025年8月30日(土)~2025年9月14日(日) シアタートラム
大阪公演:2025年9月19日(金)~2025年9月21日(日) 近鉄ホール
観劇日:2025年8月31日(日)17:30公演、2025年9月5日(金)13:00公演