第5回目のレビューは、ロシアの劇作家アントン・チェーホフの戯曲「かもめ」です。
本作は、坂口健太郎さんが舞台初出演作品ということでも注目されています。
観劇した率直な感想を言いますと、非常に難しい作品だと感じました。
海外戯曲は全般的に、日本人が演じることで一種の"虚構性"や"空虚感"が生まれてしまうことは必然で、また、セリフの言いまわしも海外独特で非直接的ではないものが多い印象です。回りくどいといいますか・・・。
なので、難しい印象を受けるのは当然だとも思いました。
私は、今回の戯曲「かもめ」を1回観ただけではストーリーを理解することができませんでした。それは私の予習不足だった点が否めません・・・。
できる方ならばストーリーを予習していくことをおすすめします(笑)
先ほど、海外戯曲を日本人が演じることで"虚構性"や"虚無感"が生まれてしまう、と書きましたが、今回の作品ではそのような"虚構性"を打ち消そうとする演出が多々なされていたと感じました。
客席に入ってまず驚きました。「舞台セットがない!?!?」
舞台上には、ほぼ舞台セットが建てられておらず、むき出しの状態。背景には劇場のコンクリート壁、床には黒いステージと必要最低限の小道具が隅に置かれておりました。
そして、ステージを縁取るように囲んで立っている細くて白い額縁。
そういった舞台上のセットを見て、
「私は縁の中で『かもめ』を演じている"日本人役者"達を切り取って観ているんだ」と感じました。映画よりも現実的な、作られた世界というか。
そう認識することで、観客に向けて、作り過ぎた先入観を植え付けることなく、内容を重視した"日本人の演じる"海外の戯曲を届けていると思えます。
結局、どんなに上手い役者さんが「ニーナ」や「トリゴーエン」役などの外国人を演じても日本人である以上違和感はぬぐいきれません。だって顔は日本人ですもん……(笑)その違和感が"虚構性"や"虚無感"につながる、と私は思っています。
そういった違和感のようなものをできる限り抑えた演出だったと感じました。
ストーリーも全体的に掴みづらく、理解したと思ったら手のひらからするりと抜け落ち、また、分かった!と思ったら手のひらから抜け落ち・・・。
男女のラブストーリーなのか、親子の物語なのか、はたまた一人の男の苦悩と葛藤を描いた物語なのか・・・結果として、観る視点によって複数の異なる面を持つ壮大なストーリーなんだ、と思いました。
ひとりひとりの役者の動きが妙に不完成なようで完成されており、まとまりが無いようでまとまっている、不思議な感覚を体感しました。
満島ひかりさん、田中圭さんの演技を生で拝見するのはそれぞれ4回目と6回目でしょうか。いろんな舞台に行き過ぎていて回数を把握しておりませんが(笑)
どちらも演技がめちゃくちゃ上手いです!!!私はお二人の演技が大好きなので、出演される舞台によく行きます。ドラマや映画でもひっぱりだこの2人ですから、演技が上手いことは周知の事実なのですが、舞台でこそ最大限の魅力を発揮する2人だと思います!!!
今回も凄すぎました・・・。2人とも憑依したような演技をするなぁ、と。
あと、とにかく器用だなぁという印象です。
また、今回初舞台となる坂口健太郎さん。
初舞台にして非常に難しい戯曲に挑戦する姿に、純粋に凄いと思いましたし、ストーリーの主軸ともなる役を全身全霊で受け止め、自分の中に消化して、演じている印象でした。少年ぽさも持ち合わせている役柄なので、そういったところも丁寧に素敵に表現されていました。
なかなか海外の戯曲は切なく、苦しいストーリーが多いですが、「かもめ」は日本で何度も上演されている作品ですし、なかなかに斬新な演出がなされているなぁという印象を受けましたので、是非この機会に海外の戯曲に触れてみてはいかがでしょうか!
【公演情報】
東京芸術祭2016 『かもめ』
出演:満島ひかり、田中圭、坂口健太郎、渡辺大知、あめくみちこ、山路和弘、
公演日程: 東京:2016年10月26日(土)~11月13日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
宮崎:2016年11月16日(水) メディキット県民文化センター演劇ホール
長野:2016年11月19日(土)~11月20日(日) まつもと市民芸術館主ホール
北海道:2016年11月23日(水・祝) 札幌市教育文化会館大ホール
滋賀:2016年11月26日(土)~11月27日(日) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホール
神奈川:2016年11月29日(火)~11月30日(水) 杜のホールはしもと・ホール
愛知:2016年12月2日(金)~12月4日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
観劇日:2016年11月5日(土)14:00公演