今回のレビューは田中圭さん主演、舞台「夏の砂の上」です。
演出を手がけられているのは演出家・栗山民也さん。
2019年に上演された舞台「チャイメリカ」でもタッグを組んでおり、栗山さん演出作品には2度目の出演となる田中さん。
「チャイメリカ」の社会派戯曲とはガラッと変わって、今作は長崎を舞台とした、ひとりの男と彼を取り巻く人たちの、何だかリアルで淡々とした日々を描いた作品となっておりました。
職も家族も失った一人の男
舞台上には、畳の居間があり、その上にちゃぶ台、タンスのみが置かれ、それ以外の装飾品がまったくない状態。
ガランとした質素な空間で、一人の男が日々に希望もなく生きている姿が浮かび上がってくるように見えました。
田中圭さん演じる主人公・小浦治は、働いていた会社が突然倒産し、妻とは別居状態。
息子も10年ほど前に事故で亡くなっており、職も家族も失って、コンビニ飯を食べている姿は、救いようのない辛さを纏っています。
治の姉は男癖が悪く、新しい男とスナックを開くといって一人娘の優子を治に押し付けて出ていきました。そこから奇妙な2人の生活が始まります。
作中が真夏なので、登場人物は薄着だったり汗ばんでいてとにかく暑そうな演出なのですが、なにせ今は絶賛秋で、観客はコートまで着ちゃってるので、これから寒くなる季節に「暑さ」というものを届けるのはなかなか難しいなと思いました。
初夏や、残暑厳しい時期に上演されるとまた観る方も感覚が違ってくるのかな、なんて思ったりしました。
治と優子の同居生活
優子を演じるのは山田杏奈さん。今作が舞台初出演とのことですが、彼女の舞台上での存在感に圧倒されました。
優子も治同様、この世界に半ば諦めているような雰囲気で、淡々と毎日を過ごしているのですが、治と共に過ごすことで同じ寂しさを抱える者同士、心のどこかで繋がりを感じ支え合っている感情が伝わってきました。
治と彼を取り巻く人たちのふとした日常を描きながら、どこかスッキリとしない、とりとめのない会話が続きます。大きな事件は舞台上では起きないけれど、舞台の外で彼らがどんな生活をしているのかが見えてきます。
会話のなかに、彼らが抱えている感情があふれ出す瞬間があって、不規則なリズムで会話が進んでいきます。
ダメ人間たちの抗えない悲壮感を感じるのですが、これが人間だよなぁという本来の姿みたいなものも感じて、その姿に納得感すらありました。
夏の砂の上のような乾ききった心に沁み込んでゆく、彼らを救う一筋の希望があったらな、と願わずにはいられない作品でした。
【公演情報】
「夏の砂の上」
演出:栗山民也
出演:田中圭、西田尚美、山田杏奈、尾上寛之、松岡依都美、粕谷吉洋、深谷美歩、三村和敬
日程:
東京公演 2022年11月3日(木)〜11月20日(日) 世田谷パブリックシアター
兵庫公演 2022年11月26日(土)・27日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
宮崎公演 2022年12月3日(土)・4日(日) メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場) 演劇ホール
愛知公演 2022年12月10日(土)・11日(日) 刈谷市総合文化センター 大ホール
長野公演 2022年12月16日(金)・17日(土) まつもと市民芸術館 主ホール
観劇日:2022年11月4日(金)19:00公演