今回のレビューは、舞台「緑に満ちる夜は長く...」です。
女手一つで育ててくれた母が亡くなったことをきっかけに、久々に集まった4兄弟が織りなす家族の物語。
母の死をきっかけに、それぞれが長年抱えていた不満をぶつけ、本音をさらけ出す。
家族が未来に向かって進もうと心を通わせる、再生の物語だと思いました。
(↓ネタバレ含んでますのでご注意ください)
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葬儀を終え、久々に実家に集まった四兄弟は母との思い出話をしながらも、どこか隠し事をしているよう。
母と最後まで一緒に暮らしていた三男のユウは、幼少期のとある事件をきっかけにコミュニケーション障害を抱えている。
母と兄弟はハンデを持つユウを特別扱いし、一方でユウは、変に特別扱いされていることに不満を募らせていた。
母と四兄弟、親子水入らずの最後の時間に一人の来客が。母親の開かずの金庫を開けるために来た鍵屋だと言う。
だが実は鍵屋は4兄弟の父親で、兄弟とは数十年ぶりの再会だった---。
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作品の中に時折流れる少し苦い空気感。だけれど、苦すぎない。
登場人物みんな不器用だけれど、家族の絆を感じる愛しい時間が流れていて、障害を持つユウが家族から愛されてることが伝わってきます。
母と最後まで一緒に過ごし、誰よりも母のことを理解しているユウが秘めている家族への想い、そして幼少期に姿を消した父のことについて。ユウから発せられる一言一言が深くて、誰よりも父や母のことを考えている姿に胸が締め付けられましたし、家族との関係について改めて考えさせられました。
ストーリーが進むにつれて、笑っていたのに気づいたら涙が流れている不思議な感覚。
鼻をすする音がいろんなところから聞こえてきて、観客はほぼ泣いてるんだけれど、笑い声も聞こえてきて、母親の死やコミュニケーション障害など重たいテーマを扱いながらも、コミカルな会話劇も盛り込んでいたり、くすっと笑える絶妙な軽快さもこの作品の魅力でした。
作中、随所で登場するハンドパペット。
四兄弟の幼少期を象徴する思い出の品であり、そのパペットを使って兄弟の幼少期エピソードを再現したりと、本作の重要なキーアイテムになります。かわいらしくて、暖かい演出。
四兄弟は幼少期のエピソードを行ったり来たりして、全員が現在と幼少期とを演じ分けるのですが、幼少期のシーンではちゃんと子供に見えてくる面白さ。
大人が子供を演じてる可愛らしさも楽しみながら、大きな暗転を挟まずに過去と今を繋げていく、演出としてのこだわりを感じました。
主人公のユウを演じる戸塚さんは毎年主演舞台を行い、大好きな俳優さんの一人として作品を拝見しておりますが、いろいろなキャラクターを演じてきている中で、障害を持つ青年を演じたのは初なのではないでしょうか。
やっぱり芝居が上手いな…と感嘆が漏れそうになるほどで、指の動かし方や視線の動きといった細かいところまで演じ切る凄み。「まだその引き出しあったか…」と思ってしまうほど今までとはまた違ったベクトルのお芝居をされていて、もっといろいろな役柄を見てみたいなと。コミュニケーション障害という難しい役どころを演じ切る、まるで憑依しているかのような説得力ある存在感でした。
ユウの兄弟を演じているのが加藤虎ノ介さん、山口森広さん、溝口琢矢さん。
ユウとの距離感をそれぞれが図りながら接し、ユウや将来のことを考えている様子に心打たれました。全員が不器用だけど愛がある。家族って素晴らしいなって。
弟であるユウを支えなければならないという責任を感じている長男のゴウと次男のカイ、ユウを兄として慕うケイ、立場が違うからこそ悩みも異なるけれど、物語の後半にかけて見えてくる彼らの本音が胸に響きます。
母の死をきっかけに本音で話すことができた4兄弟の、凍っていた時間や心が溶けてゆく様を実際の雪解けと掛けて演出しているシーンもあり、今後の緑川家の幸せを願う暖かい気持ちになれるラストでした。
演劇が好きでよかったな。そう思えるほど素敵な作品で、こういう作品に出会える喜びがあるから私は演劇が好きなんだ、と改めて感じた作品でした。
【公演情報】
舞台「緑に満ちる夜は長く...」
脚本・演出:田村孝裕
出演:戸塚祥太(A.B.C-Z)、加藤虎ノ介、山口森広、溝口琢矢
坂田聡
高橋由美子
日程
東京公演:2024年3月1日(金)~3月17日(日) 新国立劇場 小劇場
大阪公演:2024年3月30日(土)~3月31日(日) COOL JAPAN PARK TTホール
観劇日:2024年3月6日(水)18:30公演