今回のレビューは、舞台『Medicine メディスン』です。
白井晃さん演出、田中圭さん主演の作品。
登場人物は3人の役者と一人のドラム奏者という面白い設定で、この少人数体制でどのような作品が生み出されるのかとても気になっていた作品でした。
ワンシチュエーションで繰り広げられる、掴めそうで掴めない世界観。どういった人たちなのか、そもそもなぜここに集まっているのか、後半になるにつれて徐々に分かってくるですが、私自身は完全には理解できないまま劇場を後にしました。
「一体彼らはあのあとどうしたんだろう…」という疑問を抱えて、ボーっと考えながら家に帰ったときのあの感情は、私はとても好きな感情で、体の中に余韻の残る作品でした。
精神病棟のような施設の一室に集まる登場人物たち。
田中圭演じるジョンはこの施設で生活している患者のようです。部屋の片づけをしていると、そこにロブスターの着ぐるみを着たメアリー(富山えり子)と男装をしたもう一人のメアリー(奈緒)が登場。
そもそもなぜロブスターや男装の恰好をしているのか理由は説明されますが、いまいちピンと来ない。でも淡々と物語は進んでいきます。
二人のメアリーは演劇に精通しているようで、ジョンの書いた脚本をここで演じるために集まったようでした。ジョンの脚本は、自身の生い立ちを綴ったもの。自身の出生から今に至るまでが劇中劇を通して観客に示されます。
ジョンが施設に入ることになった原因が徐々に明らかになり、そのあまりにも悲しい過去に、こちら側の胸が張り裂けそうになりました。
脚本を演じることで自身の過去と改めて対峙することとなり、忘れかけていた記憶がまた鮮明になってしまう。そして、外の世界に出たがっていたジョンはその恐ろしい記憶のせいでこれからもこの施設にいることを選んでしまう…。
人が洗脳されていく様を見せられているようでゾッとしました。
こうやって人は操られていくのだと。
終始おどおどしていてこの空間に振り回されているジョンが、後半になると能動的に自身の過去を思い出し、恐れ、泣き、叫び、壊れていく。そのジョンを演じる田中圭さんの上手さ。
1本の作品の中での濃淡をしっかりと見せていく凄み。
受け身の芝居はもちろんのこと、感情の動きを大胆かつ丁寧に演じられていて、芝居を生で観たい役者さんの一人です。
音響としてこの部屋にやってきたメアリーを演じるのは奈緒さん。
劇中劇でも様々な役を演じ、複数の着替えも込みでかなりカロリーが高い役どころ。
ジョンの芝居を通して何かを感じ、部屋の外を眺めたり、彼に哀愁の目を向けたり。彼女の心に引っかかる何かが彼女自身もわかっていないような。ジョンを助けたいのか、それとも別の思惑があるのか…。
がさつなキャラも可愛らしいキャラも、いくつも演じ分けるような構成なので、純粋に芝居が上手いなと思いましたし、いろんな役を演じられるポテンシャルの高さを感じました。
そして、本作のキーマンとも言える富山えり子さん演じるメアリー。
登場から不思議で、全く掴みどころがない。愉快な人かと思いきや、何か裏があるような動きをしたり。ジョンがここにいる理由を唯一分かっている?ようでもありました。
ストーリーが大きく動いていくきっかけとなる人です。
とにかくパワフルで圧倒的存在感。クスっと笑えるセリフを言いつつも、後半になるにつれて本性が明らかになっていく恐怖。思い出しただけでも怖い。
ワンシチュエーションながらも様々な小道具や突発的な風、蛍光灯の光を点滅させたり、あえて暗くしたり、刺激のある展開が数多く含まれていて非常に面白かったです。
ブラックコメディとも違う、笑えるけれどもダークな世界が広がっていて、混沌とした演劇の醍醐味が詰まっているなと思いました。
【公演情報】
舞台「Medicine メディスン」
作:エンダ・ウォルシュ
翻訳:小宮山智津子
演出:白井晃
出演:
田中圭、奈緒、富山えり子
荒井康太(Drs)
日程
東京公演:2024年5月6日(月・祝)~6月9日(日) シアタートラム
兵庫公演:2024年6月14日(金)~6月16日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
愛知公演:2024年6月22日(土)~ 6月23日(日) 東海市芸術劇場 大ホール
静岡公演:2024年6月29日(土)~6月30日(日) グランシップ 中ホール・大地
観劇日:2024年5月21日(火)19:00公演、5月30日(木)19:00公演