今回のレビューは、宝塚宙組ミュージカル「Xcalibur エクスカリバー」です。
領土争いに巻き込まれた純朴な青年・アーサーが、自身が背負うべき過去と向き合うなかで、様々な人との出会い、そして立ち向かうべき苦しみを知っていく。
アーサーが信じるものは一体何か、そして闘いを経て彼が見つめる先にあるものは・・・。
伝説の剣・エクスカリバーに選ばれた、アーサーという新たな王の誕生と、宙組新トップスター芹香斗亜さん誕生がリンクして、ストーリーに更に重みの増す作品でした。
1幕では自身の生い立ちも知らない頃の純朴なアーサーと、王となった後の2幕では、敵であるサクソン族に愛する父を殺され復讐心に取りつかれてしまったアーサーの、一人二役のような似ても似つかぬ変貌っぷりを、芹香さんが好演しておりました。
2幕のアーサーは、悪役を幾度となく演じられてきた芹香さんだからこその迫力があり、また、壮大な楽曲に心情を投影して歌い上げる姿は心に刺さりました。
アーサーの運命を大きく動かす2人の人物
殺戮を繰り返す暴君であったウーサー・ペンドラゴンの息子であるとアーサーに告げ、彼に王になることを命じる司祭・マーリン。
アーサーの出生にも大きく関わってきており、平凡だった彼の人生を大きく動かす存在です。
そしてアーサーの異母姉であり、マーリンへ復讐心と執着心が入り混じった愛情を向ける女性・モーガン。
裏の主人公はマーリンとモーガンと言ってもいいくらい、彼らの苦悩や憎悪が壮大な楽曲とともに描かれていて圧巻でした。
マーリン演じる若翔りつさんは宙組きっての歌唱力を持つ方。
その歌声を十二分に発揮したのではないでしょうか……。アーサーやモーガンの人生の元凶である司祭マーリンは佇まいから迫力があり、りつさんじゃないと演じられなかったと思います。
伸びやかで耳心地が良いりつさんの声が個人的にとても大好きで、前作のカジノ・ロワイヤルでもソロ曲を1曲披露していましたが、今回はステージ上で複雑なメロディーラインの曲をいくつも披露。唯一無二の歌声を数々の壮大なナンバーに乗せ、流れるように歌っていました。
りつさんの歌声が会場中に響き渡って空気が変わる、そんな気までするような感覚になりました。
モーガンを演じるのは真白悠希さん。初の女性役かつ本作のキーパーソンになる大役ですが、迫真の演技が凄まじかったです。 マーリンへの復讐にも近い歪んだ愛情を熱く、深く、気迫溢れる表情で熱演。凛とした気品溢れる佇まいのなかに堂々さも感じられました。 難しい楽曲をソロで何曲も歌い上げ、高音も地声で歌い上げる、力強い歌声も圧巻。
モーガンが抱く、父であるウーサー・ペンドラゴンやマーリンに対する積年の恨みが異母弟であるアーサーへの憎しみに変わり、アーサーの人生を狂わせていく様は見ていて心苦しく、モーガンが抱えてきた苦しみの大きさを物語ってました。
アーサーと春乃さくらさん演じるグィネヴィアの結婚式の場面で、桜木みなとさん演じるランスロットの内に秘めたる想いに気づいたモーガンがニヤっと笑みを浮かべる表情や、ジトーっと睨む目つきが今まで見た役者のなかでも迫力があって、モーガンという人物の恐ろしさがしっかりと表現されていて、その芝居力の高さが恐ろしいです。
おそらくですが20代前半という若さで、あの歌唱力と芝居力。
宙組の中では若手の真白さんですが、相当の爪痕を残す存在感でした。
機微に表情を変化させ、復讐と愛憎に狂っていく様を歌と芝居でしっかりと表現し、上級生を喰ってしまうほどの迫力がありました。今後さらに様々な作品で活躍してほしいです。わたしが演劇プロデューサーだったら一番先に声をかけたいくらい………
そして、今作より宙組トップ娘役となった春乃さくらさん。
彼女の伸びやかで優しい歌声に心が洗われました。癖のない歌声だからこそ、デュエットソングなどで主旋を邪魔しない、寄り添う歌声だと感じました。メインを引き立てるハモりがとっても素敵で、アーサーを支えながらも自立している強い女性・グィネヴィアを丁寧に演じられていていました。
キャッチ―でありつつも複雑な曲が多かった本作ですが、とにかく全ての楽曲が素晴らしかったです。複雑なメロディラインに幅のある音域、非常に歌うのが難しい楽曲ばかりのなか、聴いてるこちらとしては軽々と歌い上げているように聴こえる皆さんの歌唱力の高さに感動しっぱなしでした。
【公演情報】
ミュージカル「Xcalibur エクスカリバー」
潤色・演出/稲葉 太地
出演:
宙組/松風 輝、芹香 斗亜、桜木 みなと、花菱 りず、若翔 りつ、湖々 さくら、真名瀬 みら、雪輝 れんや、花宮 沙羅、春乃 さくら、夢風 咲也花、輝 ゆう、有愛 きい、琉稀 みうさ、真白 悠希、梓 唯央、楓姫 るる、舞 こころ、泉堂 成、大路 りせ、聖 叶亜、葉咲 うらら、渚 ゆり、郁 いりや、波輝 瑛斗、花咲 美玖、風翔 夕、結沙 かのん、華乃 みゆ、織史 青、愛城 美紗、華楽 逸聖、海玖里 粋、輝珠 ななせ、輝星 成、響 望歌
専科/悠真 倫
日程:2023年7月23日(日)~8月5日(土) 東京建物Brillia HALL
観劇日:2023年7月31日(月)13:00公演