今回のレビューは、ミュージカル「スリル・ミー」です。
2011年に日本初演、その後、毎年再演されている人気作ですが、ようやく見に行けました!!!!
出てくるのは"私"と"彼"のたった二人。
二人の思惑や愛情が絡み合う、濃厚で複雑な愛憎劇でした。
愛することや愛されることは美しいですが、
一方で、扱い方を間違えると自身も相手も壊してしまう、危険な感情だと思いました。
"私"は、"彼"を一心に思い続ける青年。
"彼"からの愛情を求め続けるがゆえ、"彼"の言いなりになってしまう弱さがありました。
物語が進むなかで、”「私」はなぜここまで「彼」からの愛に執着するのか…”という疑問が浮かびあがるほど、とにかく"彼"からの愛を求め続けていました。
一方で"彼"は、狂気性をはらんだ青年。
自分が他人とは比べものにならないほど天才であることに快楽を覚えているといった、歪んだ性格の持ち主。犯罪にまで手を染め、放火を繰り返し、次には空き巣にも手を付ける始末。犯罪を繰り返す"彼"を止めようとする"私"でしたが、"彼"はとうとう殺人を計画してしまう。
とにかく言動すべてに全く共感できない"彼"なのですが、"私"に対しまるでDV夫のようにアメと鞭を使い分け、その時折見せる優しさが"私"を虜にしているのだろうなと。
"彼"は、完全犯罪を行うための無理難題を次から次へと"私"に要求する一方、"私"が見返りとして求めるのはたった一つ。彼に愛してほしい。
キスシーンや官能的なシーンも多く、アダルティな雰囲気をとても感じる作品でした。
3ペアが公演ごとに交代で出演しており、今回、前田公輝さん木村達成さんペアの回を観劇しました。
"彼"を演じる前田さんは、恐怖や虚無感を感じる芝居が本当に素敵で、前田さんの持つミステリアスな雰囲気がまさしく"彼"そのもので、怖いけれど触れたくなる、そんな魅力がありました。
時折"私"にかける声がとても優しく、少しばかりは"私"に愛情があるのかも...と思わせる雰囲気も。
一方で"私"のことをなんとも思っていない、愛情のなさが感じられるシーンも多く、無慈悲で棘を感じました。
"私"を演じた木村さんはとにかくエネルギッシュで繊細なお芝居。
"私"は公演時間100分間ほぼ出ずっぱりで、現在と過去のシーンを行き来して、ストーリーテラー的な役回りも担う非常に体力の必要なキャラクターで、精神的にも簡単には演じられない難役ですね…。
19歳の"私"らしい純粋な若々しさも感じながら、愛してるがゆえに"彼"に翻弄され、人生を狂わされていく様の落差のある表現力が圧巻でした。
愛情の向きが一方通行なシーンが多くて見ていて苦しく、さらに、後半にかけてダークな展開になっていきますが、2人の役者の魂を削るような芝居を全身で受け止めることができる、見ているこっちまで体力を消耗してしまうような力強い作品でした。
【公演情報】
ミュージカル「スリル・ミー」
演出:栗山民也
出演:
尾上松也、廣瀬友祐
木村達成、前田公輝
松岡広大、山崎大輝
ピアニスト:
朴勝哲/落合崇史/篠塚祐伴
日程:
東京公演 2023年9月7日(木)~10月3日(火) 東京芸術劇場 シアター・ウエスト
大阪公演 2023年10月7日(土)~10月9日(月・祝) サンケイホールブリーゼ
福岡公演 2023年10月11日(水)・12日(木) キャナルシティ劇場
愛知公演 2023年10月14日(土)・15日(日) ウインクあいち 大ホール
群馬公演 2023年10月21日(土)・22日(日) 高崎芸術劇場 スタジオシアター
観劇日:2023年9月10日(日)19:30公演