『書きます!#観劇レビュー』

鑑賞した舞台のレビューをただただ書き残していきます!

ミュージカル『スリル・ミー』(尾上×廣瀬)を観劇した感想(ネタバレあり)

今回のレビューも、ミュージカル「スリル・ミー」です。


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先日は木村さん×前田さん回、今回は尾上さん×廣瀬さん回を観劇。

 

うそだろ...同じ演目なのに全く違う人間模様じゃないか.....。

これは書かずにはいられない.....!ということで尾上さん×廣瀬さん回の感想を書きます。

 

そもそも役者が変わるとキャラクター描写も変わるのが、役替わりだったりアンサンブルキャストの面白いところで私も大好きですが、本作は演者が変わるとキャラクター同士の関係性や物語から感じる畏怖までもがあまりにも違いすぎて、これが「スリル・ミー」の作品としてのパワーなのだなと。

 

再演を繰り返す理由も分かりますし、ペアが変われば関係性も物語のイメージもガラッと変わってしまう凄さがあり、2人(+ピアノ奏者)だけで作る舞台だからこそ、役者そのものから生まれる感情がそのまま反映される、非常に繊細な作品。

 

前回が「スリル・ミー」初観劇だったので、これは愛の物語なんだな、とばかり思っていたのですが、それは木村×前田ペアが生み出した"私"と”彼”だから...。

そのことに気づいてしまいました.......。今回の尾上×廣瀬ペアには愛を一切感じず、2人の男の数奇な運命を描いた作品のような感覚でした。

 

木村さんの"私"はとにかく"彼"からの愛に飢えていて、”彼"しか見えていない雰囲気がありましたが、尾上さんの"私"は昔からの友達である"彼"を親友として見ていて、少しオタクっぽい雰囲気。"彼"に対しては親友の延長として愛情があるような。

尾上さんの"私"と廣瀬さんの"彼"は立場が平等ではなく、"彼"が完全に支配していて、"彼"は"私"のことを自分の言うことを聞く駒としか思っていないよう。

キスをするのも愛情があるからではなく、言うことを聞かせるため。

なんとも冷血非道で、サイコパスでしかない"彼"でした。

 

一方で、廣瀬さんの"彼"とは全く違う雰囲気だった前田さんが演じる"彼"。

前田さんの"彼"には"私"に対する愛情を感じました。

時折見せる優しさも、「レイ」と"私"を呼びかける声も優しく、でも廣瀬さんの"彼"は1ミリも優しくなくて人の心が全く無かった。

血…流れてます????笑

 

そんな廣瀬さんの"彼"と共にいる尾上さんの"私"はとても純粋。

普段の尾上さんのイメージからは想像しづらいほどピュアボーイで、尾上さんの持つ透き通る綺麗な声がより一層純粋さを濃く出していたように思います。

尾上×廣瀬ペアの"私"と"彼"は対等ではないがゆえに、"私"は"彼"に自分のことを認めてほしい、平等に扱ってほしいと懇願しているようで、それがあの事件の結末と繋がっていくように思いました。

 

完全犯罪が可能だったはずが、逮捕されるように証拠をわざと現場に残した、その事実を"彼"に告白する場面、尾上さんの"私"からは一生そばにいたいという愛情より、自身を認めてほしいといった感情を強く感じたんですよね。

支配されているがゆえに対等な立場を求め続けているような。

だからこそ、こういう手段を使って彼に自身の存在を示したのではないかと。

護送車の場面で、実はわざと証拠を残したと告白するシーンでの"私"の表情、尾上さんの悪そうな表情がぴったりハマって、尾上さんだからこそ表現できる、ギャップのある"私"だと思いました。

 

ラストにかけて彼→私ではなく、私→彼へと支配関係がじわじわと変化していく様は恐ろしいなかにも清々しさすらありました。廣瀬さん演じる彼の怖がりようと尾上さん演じる私の達成感に満ちた顔。

このふたりだからこそ生まれた私と彼の関係性だなぁと。

 

木村さんの"私"は"彼"への想いが純粋で大きすぎて、対等な立場ではあるけれど"彼"を自分の物にしたいという独占欲が爆発してました。

愛しすぎたあまり、僕だけのものにしたいという一心で、監獄で一生共に過ごすという最終手段を選んだように見えました。

 

 

実際の事件を題材としたとても残虐な事件が描かれますが、木村×前田ペアを観劇したときよりも尾上×廣瀬ペアのほうが胸糞が悪かった(褒めてます)。

 

廣瀬さんの”彼”が本当に恐すぎて、誰にも絶対に止められない迫力がとんでもなかった。

そんな"彼"を止めようともがくけど全く相手にされていない尾上さんの"私"がとにかく不憫で、ただ真面目に生きてるだけなのに、昔からの親友に優しくもされず、いいように使われて...。見てるだけで胸が締め付けられました。

 

"私"は19歳の頃と50代の現在を行ったり来たりするため、切り替えながら芝居をしなければならないですが、尾上さんの声の使い分け、すさまじかったです。一瞬で老けた声になる凄さ。芸達者ぶりを味わいました。

 

どちらのペアも素晴らしく、それぞれから感じるものがあって、興奮と恐怖が入り交じる複雑な感情が溢れました。

 

これは何度でも観に行きたくなる作品だ.....「スリル・ミー」とんでもない。

劇薬みたいな舞台。

 

20~40代くらいの俳優、全員「スリル・ミー」出演してくれないかな。

 

 

【公演情報】

 

ミュージカル「スリル・ミー」

 

演出:栗山民也

 

出演:

尾上松也、廣瀬友祐

木村達成、前田公輝

松岡広大、山崎大輝

 

ピアニスト:
朴勝哲/落合崇史/篠塚祐伴

 

日程:

東京公演 2023年9月7日(木)~10月3日(火) 東京芸術劇場 シアター・ウエスト

大阪公演 2023年10月7日(土)~10月9日(月・祝)  サンケイホールブリーゼ

福岡公演 2023年10月11日(水)・12日(木)  キャナルシティ劇場

愛知公演 2023年10月14日(土)・15日(日)  ウインクあいち 大ホール

群馬公演 2023年10月21日(土)・22日(日)  高崎芸術劇場 スタジオシアター

 

観劇日:2023年9月14日(木)14:30公演、9月18日(月)14:30公演