第61回目のレビューは、新国立劇場にて上演中の舞台「Oslo(オスロ)」です。
V6坂本昌行さん主演の本作は、国同士の駆け引きや人間のエネルギーに満ち溢れる、パワフルな作品でした。
敵国同士の極秘交渉
1990年頃、イスラエルとパレスチナは過去から長きにわたって緊張関係にあり、いまもなお紛争も絶えない状況であった。その状況を目の当たりにした坂本さん演じるノルウェーの社会学者ラーシェンは両国へ和平をもたらすことを決意し、妻でありノルウェー外務省職員であるモナとともに様々な人たちの協力を得ながら両国の交渉を進めていく.....
という物語です。
観客全員がすぐ理解するには非常に難しいテーマであり、多くの専門用語が飛び交うため、事前予習が必要だと痛感しました。もしくは「高校生のときに世界史もう少し頑張っておけばよかった・・・」。
冒頭から状況がつかめずとっつきにくい印象でしたが、物語が進むにつれて、冒頭が伏線になっていることに気づきます。
物語のはじめは交渉が順調に進んでいないように見受けられるのですが、それもまた伏線。物語が進むにつれて、坂本さん演じるラーシェンと安蘭けいさん演じる妻モナの交渉を円滑に進めるための作戦であることが分かり始めるのです。
ラーシェンの覚悟とモナの支え
ラーシェンは極秘交渉を円滑に進めるため、そして各国の了解を得るためにとにかく奔走します。時には矢面に立って両国からの不満や批判を浴びたり、一方で自分だけでは対処しきれずモナに助けを求めることも。それでもこの交渉を必ず成立させるという強い意志が、作品全体を通して常に伝わってくるのです。
坂本さんの紳士的かつ可愛らしいイメージが、時に強く、時にか弱く見えるラーシェンというキャラクターをさらに魅力的に見せていたと思います。
そんなラーシェンを常に支え、同じ理想をめざしともに奔走するのが妻のモナ。そのモナを演じたのは安蘭けいさんです。
強くたくましく、一方で女性ならではの柔軟さも併せ持つ彼女の存在は交渉を進めるにあたっては必要不可欠。安蘭さんが演じてくださったことで、モナという存在がこの交渉下においていかに必要かということに説得力がありました。
1人二役
本作では、主要キャラクターを演じている相島一之さん、河合郁人さんらが二役を演じていることに驚きました。
特に河合さんは両者の登場シーンが近い場面があり、早着替えとなるシーンも多々ありました。熱血で笑顔なしの外務省職員と個性的で陽気なキャラクターである研究員という似ても似つかぬ二役を演じ、全く異なるキャラクターだからこそ演じ分けも素晴らしく、場面展開と同時に、十数秒後には別のキャラクターとしてステージ上に現れるのは視覚的にも面白い演出でした。
映像を使った演出
ステージ上には一面に大きな壁が設置され、物語が進むにつれて、壁にプロジェクションマッピングで紛争の映像が映し出されます。
壁が大きなスクリーンとなり、イスラエルとパレスチナの当時の状況を観客に伝えます。実際の映像が流れることで悲惨な状況が伝わり、よりリアリティかつ緊張感のある交渉の瞬間をその場で実際に体験しているかのようでした。
【公演情報】
Oslo(オスロ)
作:J・T・ロジャース
演出:上村聡史
出演者:坂本昌行、安蘭けい、福士誠治、河合郁人、横田栄司、石田圭祐、那須佐代子、石橋徹郎、佐川和正、チョウ・ヨンホ、駒井健介、吉野実紗、相島一之、増岡徹
東京公演:2021年2月6日(土)~2月23日(火・祝)
宮城公演:2021年2月27日(土)~2月28日(日)
兵庫公演:2021年3月3日(水)~3月7日(日)
福岡公演:2021年3月13日(土)~3月14日(日)
愛知公演:2021年3月20日(土)~3月21日(日)
観劇日:2021年2月11日(木・祝)13:00公演