第74回目のレビューは、プリエールプロデュース『葉隠れ旅館物語』です。
俳優として活躍している福士誠治さんが今回は演出に専念して手掛けられた本作。
福士さんが演出業もされていることを今回初めて知ったのですが、実際に観劇しましたら、脚本もさることながら演出も非常に面白く心躍りました。
人情×忍者のドタバタコメディー
おんぼろ旅館の立て直しを考えながらもどうもうだつが上がらない兄弟が、実は忍者の末裔、という設定がもう今まで見たことなくて最高でした。
”忍者”ものとコメディーて相性いいんだな、と思いましたし、兄弟を演じた駿河太郎さんと渡辺裕太さんのキャラクターがどちらも愛らしくて掛け合いを見ているだけで気づいたら口角が上がっているという不思議。ニヤニヤしすぎてたので、マスクをしていてよかったです。
旅館にある日、久しぶりのお客さんが訪れます。若い女性が一人で長期宿泊をするということで、恋愛から疎遠だった兄弟(そしてその祖父&兄弟の幼馴染含め)は大盛り上がり!しかし、実はこの女性はある問題を抱えてて・・・。ここから叫んで走っての大騒動が展開されていきます。
久々に声を出して劇場で笑いました。
登場人物も7人という少数なので、キャラクター同士の濃い絡みを堪能できますし、全員が芸達者な役者さんだったので、コメディー部分もシリアス部分も役者さんの素材をフルで楽しめる良い作品でした。
若い女性の不思議
忍者の末裔である兄弟は忍術もしっかり使えるのですが、実は使える状況が限られていて・・・。物語の後半、兄弟は忍術を使って若い女性を助けることにします。
大騒動の原因となる若い女性を演じるのは岡本玲さん。
とにかくびっくりしました、この女性。普段は清楚で可愛らしいのですが、お腹をすかせると人格が変わって大暴れするというとんでもない設定で、旅館の中を大暴れ&その期間の記憶なしというやっかいさ。
なにせ暴れている記憶がないものだから、旅館の皆が女性に対して「お腹を空かせる前に何か食べてください!!」と言っても「・・・え?なんでですか?」みたいな掛け合いが何度もあって、その都度笑っちゃいました。
岡本玲さんのほぼ一人二役は素晴らしかったですし、最初暴れ出したときは同一人物感なかったです。
そんな女性の暴挙に対して順応していく旅館の皆を見て、慣れって怖いよなぁって人間の不思議にしみじみしてしまったのですが、女性が暴れ出すという展開は、平穏な日常に突然訪れるハプニングとしてはかなりパンチがありました。
個性爆発なキャラクターたち
兄弟には一緒に旅館を切り盛りしている祖父がいて、その祖父を演じているのが渡辺哲さん。哲さんは毎クール何かしらのドラマには出ているのでは?というほどの名バイプレイヤーという印象です。
今年の春にメ~テレで放送されていた「ワンモア」という作品で演じられていた、定時制に通うおじいさんがとても印象的でした。(地方局制作なんだけどめちゃくちゃいいドラマだったのでぜひ見てほしい)
いつか哲さんの出演されている舞台を観に行きたい!と思っていたので念願かなって本当に嬉しかったです。福士さんの演出作品にはほぼ出演されているそうです。
今回の役柄は、いくつになっても女性大好き!なチャーミングなおじいちゃん。
ひとつひとつのリアクションが全部可愛らしくて、哲さん見ている私は終始ニヤニヤしていました。
物語の中盤に登場する、増子倭文江さん演じる若い女性の叔母に惚れてからの浮足立った一挙手一投足がほんとにチャーミングで、このチャーミングさは哲さんにしか出せないと思います。本当に大好きな役者さんです。
兄弟の幼馴染で定期的にうさんくさい商売を持ちかけてくる男は村上航さん。
ぶっ飛んだキャラクターで、振り切れるだけ振り切れていて見ていて気持ちよかったですし、物語いい感じにかき乱してくれて良いスパイスになっていました。
深澤大河さんは若い女性のいとこを演じられており、アクロバット担当でもあるみたいで、様々なアクロバットを劇中で披露されておりました。
また、ツッコミも担っていて、後半のどんちゃん騒ぎを鎮める大事な役どころでした。
若い女性の叔母を演じられていた増子倭文江さん、大好きになりました!
クセのあるキャラで虜になりましたし、後半、忍術をかけられたことで本音をペラペラと話してしまうのですが、その本音を話している時と本音がばれて慌てている時の二重人格ぶりがあまりにも面白おかしくて、本作の中でも大好きなシーンです。
そして兄弟を演じている駿河太郎さんと渡辺裕太さん。
みんなの実家の近くに住んでいそうな、どこか現実味のある風貌に愛着が湧いてきますし、ちゃらんぽらんな兄と真逆な性格の弟、という構図がまたほんわかしていてくすっとしてしまうんですよね。
駿河太郎さんが演技派であるというのはドラマや映画で拝見していたので知っていたのですが、渡辺裕太さん、こんなに演技お上手なんですね。
NewsEvery.の中継先の人(コメントがとても上手)というイメージしかなく恐縮だったのですが、少し頼りない感じ、かつクセのある兄や祖父に振り回される弟がとてもぴったりでした。
忍術を使うときがきた!
後半、それぞれの思惑が錯綜していくなかでなぜか?忍術を使ってバトルを繰り広げることとなるのですが、アップデートされた現代的忍術の数々で笑ってしまいました。忍術ってここまで進化しているのかと。もはや魔法レベルだなぁと。SF要素も感じてしまい、忍術を表現する演出の数々がとても面白かったです!
舞台を観終わったあと幸福感でいっぱいで、沢山の人達と時間や空間を一緒にしながら同じものを見て笑う、という感覚がやっぱり大好きで、この感覚を得るためにはやっぱり劇場で演劇を見るに限る!と思わずにはいられませんでした。
【公演情報】
作:竹田 新
演出:福士誠治
出演:駿河太郎、岡本 玲、渡辺裕太、増子倭文江(青年座)、村上 航(猫のホテル)、深澤大河、渡辺 哲
公演日程:2021年11月10日(水)~11月17日(水) あうるすぽっと
観劇日:2021年11月13日(土)14:00公演