今回のレビューは、舞台「A・NUMBER」です。
本作は戸次重幸さんと益岡徹さんの70分にわたる2人芝居。
自分にクローンがいることを知った息子とその父親の会話劇が繰り広げられます。
自分以外の自分がいると知ったら
とある日、自分にクローンが存在していることを知った息子は、父親に問い詰める。
最初はクローンの存在を否定していた父親だが、徐々に明らかになる自分の出生の秘密。そして父親の過去。
なぜ自分にクローンがいるのか、会話が進むごとに徐々に明らかに。不穏な空気が徐々に渦巻き、2人を色濃く包みこんでいきます。
音楽もなく、足音までも聞こえてくるくらい静寂ななかで、そこは二人だけが喋る世界。
大きな出来事も起こらない。ただ、彼らの人生が確実に変化していく様を目の当たりにします。
彼らの身に起こる出来事は、会話だけで説明されていくのも非常に面白く、彼らの身に一体何が起こったのか、淡々と人生が変化していく様が見えてきます。
1人3役
クローンの息子、そしてその他クローン含め3役を演じるのが戸次重幸さん。
戸次さんの表情が豊かで、ほんと上手いなぁと思います。
クローンの役含め3役を、話し方や声色、仕草・歩き方など全て変えて演じ分ける技量とんでもなかったです。
全員別人としてしっかり存在していて、役者とは恐ろしいな・・・という感情が久々に湧きあがりました。
そしてそのクローンたちの父親を演じるのが益岡徹さん。
完全な暗転がほぼないため、場面が変わっても益岡さんは舞台から降りず出ずっぱり状態で、緊張感の切れない作品でした。
最初は息子を愛する父親であった姿から、徐々に明らかになる父親の狂気性。クローンをただのモノとして捉えていたり、人を人として扱っていない感覚が徐々に明らかになってきてぞっとしました。
クローンであることを知った息子は、自分のオリジナルが生きていることを父親から知ります。
死んだと聞いていたオリジナルが実は生きていたのです。
2幕では、そのオリジナルの息子と父親の会話が展開されていきます。
本当の息子も、クローンだった息子も、彼らはそれぞれ苦しみの根底も理由も違っていて、父親への憎悪の理由も異なります。だからこそ、その苦しみの演じ分けも必要で、戸次さんはそのキャラクターごとに父親に対する感情を表現していて圧巻の芝居力でした。
会話劇かつ3役こなすという、役者の真骨頂のような作品で、じっくりと芝居を堪能できる作品でした。
本作は床に傾斜のついた、いわゆる八百屋舞台で展開していました。
黒を基調として無駄を一切省いたセットが、2人だけを浮かび上がらせてる雰囲気をまとっていました。また、照明も大きな変化を付けず、演者に合わせて少しずつ位置や明暗を変えていき、全体を通して芝居をがつんと受け止めなければならない雰囲気がとても好きでした。
緊張感を張り巡らながら素晴らしい芝居を浴びることのできた70分間でした。
【公演情報】
舞台「A・NUMBER」(ア・ナンバー)
作:キャリル・チャーチル
翻訳:渡辺千鶴
演出:上村聡史
出演:戸次重幸、益岡徹
公演日程:
東京公演 2020年10月7日(金)~10月16日(日) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
名古屋公演 10月21日(金) 青少年文化センター
仙台公演 10月23日(日) 電力ホール
札幌公演 10月26日(水) 共済ホール
兵庫公演 10月29日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
観劇日:2022年10月15日(土)12:00公演