第57回目のレビューは、佐藤隆太さん一人舞台『エブリ・ブリリアント・シング』です。
出演者は佐藤隆太さんただ一人。
でもただの一人舞台ではなく、観客も巻き込む、体験型の舞台。なので、観客にセリフを喋らせたり、実際にステージまで連れてきて演じさせたり、はたまたムチャぶりをしたり。
観客も一緒に作品を作り上げていくという面が強く出ており、自分自身もこの作品の一部なんだ、という気持ちが生まれました。
劇場全体がステージに
ストーリーが進むにつれて演劇と現実の境目がなくなり、2つの世界が混ざりあう。
普通の舞台ではあり得ない、演劇の世界=向こうの世界への没入感たるや、未体験の感覚でした。
佐藤隆太さん演じる"僕"は、自身の生い立ちを話します。もちろん役柄の、ですが、観客は演劇空間に入り込んでいるので、もはや彼自身の話なんじゃないかと勝手に脳がそう変換してしまうんです。
子供の頃に飼っていたペットの犬の話や小さいころの父との記憶。
”僕”にとってはどこか悲しい記憶です。
そして、母親のうつ病について話し始めます。母は生きることにくじけそうになっていたのです。
そんな母親、そして自分自身を励ますために、”僕”は「人生におけるステキなもの」を見つけてノートに書いていくことにしたのです。
本作の上演前、佐藤さんは何人かの観客に番号と何かが書かれた紙を配っています。
その紙には「人生におけるステキなもの」が一つずつ書かれていたのです。
ストーリーを進めていく中で佐藤さんは番号を呼びます。その番号の紙を持ったお客さんはその紙に書かれている「人生におけるステキなもの」を読み上げていくのです。
男の子の声、おばあさんの声、お姉さんの声、おじさんの声。様々な声が自分の後ろから、横から、向こう側の右端から、様々な場所から聞こえてきます。
「人生におけるステキなもの」を皆で読んでいくことで、”僕”の物語を、観客も少しのお手伝いをしながら進めていきます。
佐藤さん演じる”僕”と観客の対話が一体感を生み出し、一つの作品を全員で作り上げようとする、素敵な空気感みたいなものが広がっていました。
親のうつ病や大切な人との別れ、人生において苦しい局面は幾度となくやってくるけれど、それを乗り越え、「明日も楽しく生きよう」と、そっと、でも力強く背中を押してくれました。
佐藤隆太さんの人柄と優しさ
ステージを囲うようにして360度、席が並べられており、佐藤さんはその真ん中で、いや、客席の間も使いながら私たちに話をしていきます。
話が進んでいくなかで、悲しんだり、怒ったり、喜んだり。
”僕”の人生における喜怒哀楽がぎゅっと詰まっていたと感じましたし、こんなに至近距離で役者が演じている姿を見る経験はあまりないので、そういう点においても、佐藤さんの芝居力を直に感じました。
佐藤さんの役者としてのキャリア、そして何よりも、佐藤さんのお人柄がないと成立しない作品だと思います。
本作は東京公演を皮切りに、全国5か所を回ります。
地方公演は、東京公演とはまた違ったお客さんの反応になるんでしょうね~。
そう考えただけでもとてもわくわくします。
70分間、少し胸が苦しくなるシーンもあるけれど、佐藤さんとあの空間にいた人全員で作り上げるこの作品は、何にも変え難い経験と勇気をくれました。
1人でも多くの人に観てもらいたい、本当にそう感じたステキな作品です。
【公演情報】
『エブリ・ブリリアント・シング ~ありとあらゆるステキなこと~』
作:ダンカン・マクミラン、ジョニー・ドナビュー
翻訳:谷 賢一
出演:佐藤隆太
日程:
東京公演: 2020年1月 25日(土)~2月5日(水) 東京芸術劇場 シアターイースト
新潟公演:2020年2月 8日(土)~2月11日(火)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
松本公演:2020年2月15日(土)~2月16日(日)まつもと市民芸術館・特設会場
名古屋公演:2020年2月18日(火)・19日(水) 名古屋市千種文化小劇場
大阪茨木公演:2020年2月22日(土)・23日(日)茨木市市民総合センター センターホール舞台上特設劇場
高知公演:2020年2月29日(土)・3月1日(日)高知市文化プラザかるぽーと
観劇日:2020年2月2日(日)13:00公演