第58回目のレビューは、『泣くロミオと怒るジュリエット』です。
ジャニーズWESTの桐山照史さん主演で、出演者が全員男性の新感覚"ロミオとジュリエット"です。
大阪が舞台ということで、関西弁で繰り広げられるロミオとジュリエットは、登場人物たちに親近感を抱きながらも、日本の社会情勢や人を愛することについて考えさせられる重厚な作品となっておりました。
全員男性のロミオとジュリエット
本作で女性役を演じられたのは、柄本時生さんと八嶋智人さんのお2人です。
柄本時生さんはジュリエットを、八嶋智人さんはジュリエットの義理の姉、ソフィアを演じられていました。
ジュリエットは、なんともけなげで可愛いらしく、ソフィアは強い女性!という印象でした。
良くないことと分かっていても彼のことが忘れられなかったり、手に負えなくても愛してるからこそそばにいることを選んだり、愛は人を動かす大きな原動力になるのです。
また、男性が演じられることで、女性の強さや可愛らしさ、いじらしさなんかがより鮮明に観客に伝わるような気がして、女性という立場から女性そのものを客観的に考えることができました。
大胆にアレンジされた「ロミオとジュリエット」
シェイクスピアによって生み出された「ロミオとジュリエット」は純愛物語です。
大きなストーリー自体は変わらないのですが、彼らを取り巻く環境や社会情勢を全く異なるものにアレンジすることで、複雑なエネルギーに満ち溢れた作品になっておりました。
地域対立や紛争、公害など、社会が生み出す弊害に苦しむ人々は正しい判断ができなくなって、混乱を生み出し、やがて人を傷つけあう。
現代にも通ずる社会の混乱を「ロミオとジュリエット」の作品背景にすることで、様々な感情が私たち観客を取り巻くのです。
設定が設定なゆえ重くなりがちですが、随所に笑いをちりばめ、シリアスにしすぎないように表現をされていたのが、素晴らしかったです。
演出を担当されたのは、鄭 義信さん。近年では石原さとみさん主演「密やかな結晶」も演出されていました。
こちらも、シリアスな展開の中にも笑いをちりばめ、緩急の付けた演出でとても素晴らしかったです。
第1幕の終わり、ロミオは親友を殺された腹いせに、人を殺めてしまいます。
罪の重さと自身の犯してしまった行為に後悔し、感情が整理できず混乱するロミオに雨が降り注いできました。
水を使った演出はそんなに多くの作品で見かけません。ですが、ロミオの混乱や後悔を表現するには効果的かつ、非常に印象的なシーンになったと思いました。
また、遺影を持って踊ったり、ロミオとジュリエットが亡くなったあとも八嶋さんや段田安則さんらが笑いを起こして、感傷的に浸るシーンにも関わらず緩急をつけて展開している点が新感覚でした。
ラストシーン
ロミオとジュリエットは、お互いを想うが故に命を絶ちます。
その二人の独白シーンは、心痛みました。
ジュリエットは目を覚ました後、横にロミオが毒を飲んで横たわっているのを見つけます。「私の希望が目の前で死んでいるの」
自身の希望が亡くなったことで、生きることの目的を見失い、ナイフで自殺します。
ラストシーン、ロミオとジュリエット亡き世界では、紛争が起き、世の中が混乱の渦に飲み込まれていきます。
人が人を殺め、泣き声や叫び声が飛び交う中、純白のドレスとタキシードを身にまとったロミオとジュリエットがゆっくりと現れます。
その二人が美しすぎるがゆえに、周りで混乱する人々との対比が色濃く出て、圧倒的に"美しい地獄絵図"を観ているかのようでした。
もちろん、生きている人々からは見えていませんが、その二人がとても幸せそうで、笑顔で、
生きている人と、亡くなった人、この世の中ではどちらが幸せなんだろうなぁと考えてしまうような終わり方でした。
もともとロミオとジュリエットの持つ純愛群像劇に新たな解釈が加わり、心打たれる素晴らしい作品でした。
【作品情報】
シアターコクーン・オンレパートリー『泣くロミオと怒るジュリエット』
作・演出:鄭 義信
出演者:桐山照史、柄本時生、橋本 淳、元木聖也、高橋 努、岡田義徳、朴 勝哲、みのすけ、福田転球、八嶋智人、段田安則、岩男海史 白石惇也 鈴木幸二 砂原一輝 西村 聡 平岡 亮 ふじおあつや、水谷 悟 、宗綱 弟 ワタナベケイスケ
東京公演:2020年2月8日(土)~3月4日(水) Bunkamuraシアターコクーン
大阪公演:2020年3月8日(日)~3月15日(日) 森ノ宮ピロティホール
観劇日:2020年2月17日(月)18:30公演