第71回目のレビューは、戸塚祥太さん主演「フォーティンブラス」です。
東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンにて上演中の本作は、”舞台俳優”の生きざまを描いた作品。
幾度となく再演を繰り返し、様々な俳優で上演されてきた本作。
今回は主演のフォーティンブラス役に戸塚祥太さん、ハムレット役に内博貴さんを迎え、若々しく情熱に満ち溢れる作品となっておりました。
ジェットコースターのような作品
幕があがるとハムレットが上演されており、私たちはハムレットを観に来た観客となる。しかしそれは劇中劇で、今作の主役はその作品を演じている舞台役者たちです。
シェイクスピア作品には劇中劇が多く登場するイメージで、本作もまた、ハムレットからインスパイアされた作品ということですが、最初から劇中劇が展開されていくストーリーに非常に面白さを感じました。
最初に舞台役者たちの演じるハムレットを目にすることで、それぞれの役者の立ち位置を知ることができ、また、二重構造となっていることで役者たちの表と裏の対比が悲しくもおかしく見えてくるのです。
とにかく早い台詞回しにひたすら流れ続ける音楽。舞台は一度も流れを止めることなく進み続け、最後までトップスピードで舞台俳優から溢れ出る熱量を受け止めることになります。
まるでジェットコースターのようなスピード感のある作品でした。
舞台俳優たちの苦悩
理不尽なことの多い世の中ですが、役者の世界もまた理不尽なことの多い世界なのではないでしょうか。キレイなまま夢や希望を持ち続けることは難しく、抗えない現実に戸惑い苦しむ役者たちの姿がそこにはありました。
本作の主人公、フォーティンブラスとその役を演じる売れない役者を演じるのはA.B.C-Zの戸塚祥太さん。
数多くの舞台に出演し、今年は新橋演舞場で上演された舞台「未来記の番人」でも主演を務められ、今年2作目の主演舞台となります。
舞台「未来記の番人」も観劇しており、観劇レポも書いておりますので、ぜひご覧ください。
戸塚さんは、自分の理想と現実の狭間で腐りかけている役者・羽沢武年と、打倒ハムレットに燃えるフォーティンブラス、似ても似つかぬ2役を演じ分けています。
亡霊やその他の役者などに対して、戸塚さん演じる武年は受け身の芝居が多いのですが、受けと仕掛ける芝居の演じ分けが本当に上手いです。また、本作ではフォーティンブラスと羽沢武年を入れ替えながら演じる場面が多く登場しますが、流れるようにスイッチが切り替わる、というか気づいたら切り替わっている。この技術は圧巻です。
武年は、口は達者ですが役者という仕事に対して覚悟がなく、どこか煮え切らない。そんな中でフォーティンブラスの父であるという亡霊に出くわしてしまい、この状況に戸惑いながらもフォーティンブラスとしてハムレットへの復讐を誓ってしまうのです。
役者業に覚悟のなかった武年が、亡霊や他の役者との出会いによって徐々に心動かされ、最後にはすべてを巻き込む舞台の幕があがります。
それぞれにスポットライトの当たるストーリー
シェイクスピア「ハムレット」の主人公はハムレットですが、今作はそれぞれの役者にスポットライトが当てられ、全員が主役となっている作品でした。
過去や権力に縛られ、本音に蓋をする役者たちがそれぞれの現実と向き合うのですが、その悩み苦しむ姿を通して、演劇への情熱を観客は目の当たりにします。そして最後には、その役者を演じている役者そのものから「演じることへの情熱」を感じるという、複雑な構造から生まれる感情がありました。
ハムレット役、そして超ワガママ俳優を演じている内博貴さんは、舞台上に立っている姿を見るだけで、その二役を演じることへの説得力がありました。彼の言動がきっかけで様々な俳優たちが悩むこととなるのですが、圧倒的権力者として舞台上に存在し、とにかく存在感がありました。
舞台俳優を演じるからこその演出
劇中劇とその舞台裏を交互に演じることで、観客が本来目にしない役者の舞台裏での動きをあえて見せるという演出は本作の設定だからこそ可能であり、面白い見せ方です。
衣装から稽古着への着替え、また、私服から衣装への着替えをあえて見せることで、二重構造をわかりやすく観客に伝える効果がある演出でした。
ハムレットという難しい戯曲を題材とした作品ですが、本質は舞台俳優たちの舞台への情熱が劇場いっぱいに溢れる、目に見える熱を帯びていた作品でした。
【公演情報】
「フォーティンブラス」
作:横内謙介
演出:中屋敷法仁
出演者:戸塚祥太(A.B.C-Z)/能條愛未、矢島舞美/富岡晃一郎、納谷 健、吉田美佳子、新原 武、吉田智則/内 博貴
公演日程:2021年8月19日(木)~29日(日) Bunkamura シアターコクーン
観劇日:2021年8月24日(火)18:00公演