今回のレビューは、舞台「夜曲~ノクターン~」です。
大阪松竹座100周年を記念し、大阪松竹座のみで上演される作品となっています。
気弱な青年と、タイムスリップしてきた武士が織りなす数奇な運命が描かれていました。
元々下北沢のスズナリで初演されていた作品と知り、納得したといいますか、めまぐるしく展開していくスピード感だったり、とにかく早口で進んでいく感じもとても演劇的で熱かったです。
主人公のツトムを演じるのは五関晃一さん。
ツトムは放火魔であり、放火をすることで自身の存在意義を確かめる、孤独を抱えたキャラクター。
優しい心を持ちながらも社会的弱者であることを恨み、目に見えない何かにずっと怯えているような雰囲気を醸し出していました。五関さんだからこその、ミステリアスな雰囲気がツトムというキャラクターに合っていて、あの雰囲気は出そうと思っても出せないなと。
ツトムは次から次へと登場する癖のあるキャラクターたちにひたすら振り回され、大声を張り上げるシーンもあるんですが、耳障りにならない聞き取りやすい通る声が印象的でした。
ツトムの放火がきっかけで700年前からタイムスリップしてしまった武士・十五を演じるのは戸塚祥太さん。
当初演じる予定だった塚田僚一さんが体調不良で活動休止となり、その代役として戸塚さんが十五を演じています。
グループ内のメンバーが代役を演じられるということ自体、奇跡が重なっていると思いますし、A.B.C-Z全員が芸達者だからこそできることだなぁと思います。
武士である十五は無鉄砲で熱く、男らしいキャラクター。
殺陣のシーンも多く、アクションパートを多く担っていました。
戸塚さんは本作の本番1週間前まで、自身が主演を務める舞台「BACKBEAT」に出演。公演を行いながら稽古も進めるようなタフな日々のなかで、しっかりと十五というキャラクターを自身に憑依させる、素晴らしい演技でした。
弱気だったツトムが十五や、十五とともにタイムスリップしてきた様々な人との出会いで気持ちに変化が生まれる一方、十五は自身の生い立ちに苦しみ、重たい影を背負って生きていることが明らかになっていきます。
物語が進むにつれて明るいキャラクターと暗いキャラクターが逆転していくような展開に。
正義と悪は紙一重である、と、十五や彼を取り巻く者たちが巻き起こしたとある出来事を通して描かれていくのがなんとも切ないストーリーでした。
思惑が絡み合い、過去と今が不思議な縁で繋がってゆくストーリーに、後半にかけてどんどんと引き込まれていきました。
演出もとても良くて、人物を舞台前後に配置する演出が随所に見られ、緊迫感や迫力の出る中屋敷さんらしい演出でした。コミカルなシーンも適度に入れながら、ラストはどっしりと演劇的な見せ方で観客を引き込む、力強い作品でした。
【公演情報】
大阪松竹座開場 100 周年記念『夜曲~ノクターン~』
作:横内謙介
演出:中屋敷法仁
出演:五関晃一(A.B.C-Z)、戸塚祥太(A.B.C-Z)、兒玉遥、相楽伊織、愛原実花、伴美奈子、北野秀気、河合穗積、河合雪之丞
観劇日:2023年6月7日(水)16:00公演